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CLL 第3章 サウンド・オブ・ロジバン

1. 綴り方

表記と音の一致: ロジバンで使われる文字
' , . a b c d e f g i j k l m n o p r s t u v x y z
アルファベットの順序をASCIIと同じにすれば、コンピュータによる並べ替えや検索が容易になる。
アルファベットの大文字は、ロジバン化された名前の中で、アクセントのある音節を表すときにのみ使われる。

2. 基本的な音声

下の表で、 r 以外の項目では、IPAの中の一番左が推奨される発音、それ以外は認められる発音。 r については、どの発音も同等に認められる。
IPA X-SAMPA 説明
[h] [h] 無声声門摩擦音
[θ] などの、ロジバンで他に使われていない無声摩擦音に代えても良い。
, 音節分離
. [ʔ] [?] 声門閉鎖または休止
a [a], [ɑ] [a], [A] 非円唇前舌広母音、非円唇後舌広母音
b [b] [b] 有声両唇破裂音
c [ʃ], [ʂ] [S], [s`] 無声後部歯茎摩擦音、無声そり舌摩擦音
# 後部歯茎で発音するので、日本語のシの子音よりも舌を奥に引っ込める。
d [d] [d] 有声歯茎破裂音
e [ɛ], [e] [E], [e] 非円唇前舌半広母音、非円唇前舌半狭母音
f [f], [ɸ] [f], [p\] 無声唇歯摩擦音、無声両唇摩擦音
# [ɸ] は日本語でファフィフフェフォの子音。
g [ɡ] [g] 有声軟口蓋破裂音
i [i] [i] 非円唇前舌狭母音
j [ʒ], [ʐ] [Z], [z`] 有声後部歯茎摩擦音、有声そり舌摩擦音
k [k] [k] 無声軟口蓋破裂音
l [l], [l̩] [l], [l=] 歯茎側面接近音(音節主音となりうる)
m [m], [m̩] [m], [m=] 両唇鼻音(音節主音となりうる)
n [n], [n̩], [ŋ], [ŋ̩] [n], [n=], [N], [N=] 歯茎鼻音、軟口蓋鼻音(音節主音となりうる)
特に [ɡ] や [k] の前では [ŋ] になりやすい。ロジバン化された名前では [ŋ] 音が語頭や語尾に置かれても良い。
o [o], [ɔ] [o], [O] 円唇後舌半狭母音、円唇後舌半広母音
特に r の前の o は [ɔ] になりやすい。
p [p] [p] 無声両唇破裂音
r [r], [ɹ], [ɾ], [ʀ], [r̩], [ɹ̩], [ɾ̩], [ʀ̩] [r], [r\], [4], [R\], [r=], [r\=], [4=], [R\=] 歯茎ふるえ音、歯茎接近音、歯茎はじき音、口蓋垂ふるえ音(音節主音となりうる)
# [ɾ] は日本語で「そら」の「ら」の子音。
s [s] [s] 無声歯茎摩擦音
# 第10節で「[ʂ] 無声そり舌摩擦音も可」と書かれているが、第2節の表では [ʂ] は c の音に当てられているので、一意的でなくなってしまう。
t [t] [t] 無声歯茎破裂音
u [u] [u] 円唇後舌狭母音
v [v], [β] [v], [B] 有声唇歯摩擦音、有声両唇摩擦音
[β] はスペイン語で母音の間の b や v の発音。ロジバンの b の発音に、この音を使ってはいけない。
x [x] [x] 無声軟口蓋摩擦音
y [ə] [@] 中舌中央母音、円唇も可。
z [z] [z] 有声歯茎摩擦音
# 第10節で「[ʐ] 有声そり舌摩擦音も可」と書かれているが、第2節の表では[ʐ] は j の音に当てられているので、一意的でなくなってしまう。

3. 特殊文字

アポストロフィ「'」:
単語内の母音の分離に使われる。[h]音で発音されるが、単語形成に際して、子音や母音として扱わない。
ピリオド「.」:
どの単語間の区切りにも使ってよい。母音で始まる単語の前と、子音で終わる単語の後には、必ず使われる。単語間の区切りにピリオドがあれば、スペースは不要。
コンマ「,」:
音節区切りに使われる(l,m,n,rが音節主音となる場合)。声門閉鎖や休止で読んではいけない。コンマの発音にアポストロフィ音 [h] を使っても良い。コンマの有無で単語が異なることはない。

アポストロフィ、ピリオド、コンマには特別注意が必要である。これらはすべて音節区切り(# division between syllables)の指標として使われる。 しかし、それぞれは異なって発音されるし、各々異なる理由で使われる。

アポストロフィ「'」は英語の"h" (IPA [h])に近い音素を表す。しかし、文字 "h"はこの音を表すのには使わない。これには理由が2つある。 まず、形態論の説明を簡潔にするためであり、それから、この音がかなりありふれたものであるため、すっきりした見た目で表現したいからである。 アポストロフィの音は本来的には子音だが、ロジバンでは形態論の目的から子音や母音として扱わない。 加えて、見た目が似ているコンマやピリオドと同様、アポストロフィも(用途は異なるが)音節の分離に使われる。

アポストロフィは、母音同士を1つの単語内で繋げる一方で、母音同士の滑らかな分離を可能にする。 実際、アポストロフィを無声の母音わたり音(# glide)とみなすこともできる。

ロジバンで使われない無声摩擦音なら何でもアポストロフィの許容な異音として使える。 [h]の代替音を使おうとする際は、聞き手の利便が最優先されるべきである。

ピリオド「.」は義務的な小休止を表すが、その長さに決まりはない。声門破裂音(IPA [ʔ])は最も短い長さの小休止とみなす。 小休止(あるいは声門破裂音)は任意の単語間に現れてよいが、特定の場合(4章で詳述)では必須である。 特に、母音で始まる単語では単語の直前に必ずピリオド音を置き、子音で終わる単語ではその直後に必ずピリオド音を置く。

専門的な話をすると、義務的な小休止を付すべき位置についての法則は非曖昧であるため、たとえその位置にピリオドがなくとも、 他の正しい文章から推察できる。そのため、ピリオドはもっぱら義務的な小休止の読み手にとっての備忘録であり、読み手を手助けするものである。

一見、単語内にピリオドがあるように見えることがあるかもしれない。この場合、そのような文字列は1単語ではなく2単語である (# ピリオドが文字列を2単語に分割する)。ピリオドがあるなら、必ずしも単語間に空白を置く必要はないのである。

コンマ「,」は、単語内の音節区切りを示すのに使われ、ふつうはその音節の区切り方が聞き手にとって明白ではないときに用いられる。 コンマは音節を区切るが、ピリオドと対照的に、そこに小休止が(絶対に)ないことを示す。 2つの母音の間のコンマは、(そこで単語を区切ってしまう)小休止、ピリオドを避けるために、 ある種のわたり音が必要かもしれないということを示す。この場合、コンマを発音するのにアポストロフィ音(IPA [h])を使えば安全である。 一方で、ピリオドの音(小休止や声門閉鎖音)は単語を区切ってしまうため、コンマの発音には使えない。

もしくは、コンマは、大抵、音節子音な "l", "m", "n", "r" の存在を明確化するために使われるのみである。 この場合、コンマは本質的に不要である:すなわち、コンマの有無によってロジバンの単語が変わるようなことはありえない。

ここで、ピリオド、コンマ、アポストロフィ間の発音における違いについて、幾ばくか人工的なものではあるが例を挙げる。(# 日本語訳では『ゆかいな牧場』として知られる)マクドナルドおじさん(# 日本語訳では「一郎さん」)の牧場についての英語の歌にある、 "ee-i-ee-i-o" 「イーアイイーアイオー」という母音列はピリオドを使うと次のようにロジバン化できる:

 
3.1)   .i.ai.i.ai.o
       [?i ?aj ?i ?aj ?o] イー、アイ、イー、アイ、オー!
しかしながら、これは元の発音に比べて、ぶつぎれだし、スタッカートだし、音楽的ではない。 さらに、例 3.1 は有意味なロジバンの単語列({.i}、{.ai}、{.i}、{.ai}、{.o})ではあるが、文としてはかなり意味不明なものである。 (筆記上の単語内にあるピリオドの用法に注意 (# おそらく、「筆記上は1単語にみえるが、実際はピリオドによって複数の単語に分断されていることに注意せよ」ということ。)

代わりにコンマを使った場合を考えてみよう。最後を子音 "n" にして、ロジバン化された名前として元の文字列を表せそうである:

 
3.2)   .i,ai,i,ai,on.
       [?i jaj ji jaj jon?]
これらのコンマは新しい音節区切りを表すが、小休止/声門破裂音ではない。 上記の発音は1つの可能性にすぎないが、目指している英語の発音とかなり近い。

しかし、このようにコンマを使うと、コンマの発音に用いたわたり音([j])が二重母音のように捉えられる可能性があり、解釈が曖昧になりえてしまう:

 
3.3)   .i,iai,ii,iai,ion.
       [?i jaj ji jaj jon?]
これは専門的にはさっきと異なるロジバン名である。私たちはふつう、元となる名前とより近い発音になるようにロジバン名をこしらえようとするので、 わたり母音や非ロジバン的な音をコンマで表せるようにするのは妥当である。このような例外は、綴りの正確さと、聞き手が(話者にとって)望ましい発音を確実に繰り返せるかどうかに影響を与えるだけであり、単語の境界の認識には影響を及ぼさない。

それでも、ロジバン名が常に明瞭であるなら、それはより良いことである。 よって、非ロジバンな発音を完璧に真似ようとせず、アポストロフィを用いて規則的なロジバン名を作るのが好ましい (そもそも、完璧というのは、いくつかの音はロジバンにまともな代替音がないという単純な理由から、どんな状況であれ達成できない。)

アポストロフィを例 3.2 のカンマの代わりに使えば、次のようになる:

 
3.4)   .i'ai'i'ai'on.
       [?i hai hi hai hon?]
これは、厳密には音の感じが異なるものの元のリズムも長さも保持している。

4. 二重母音と音節子音

二重母音

どの種類の単語にも使われるもの:
ai [aj], ei [ɛj], oi [oj], au [aw]

独立した単語として使われるか、ロジバン化された名前・借用語の中で使われるもの:
ia [ja], ie [jɛ], ii [ji], io [jo], iu [ju], ua [wa], ue [wɛ], ui [wi], uo [wo], uu [wu]

ロジバン化された名前の中でのみ使われるもの:
iy [jə], uy [wə]

# ロジバンの二重母音の組が決められた歴史的背景 (Dipthongs in Lojban
ロジバンの前身である Loglan では、はじめのうちは aa, ee, oo 以外の母音の連続を名称語に限って許していたが、 2音節の母音のペアと二重母音が区別されていなかった。そのときは、母音の連続は名称語にしか現れなかったから、区別する必要性があまりなかった。 その後、 Loglan の形態論の大改革 (Great Morphological Revolution) のときに、2音節の母音ペアと二重母音を区別することが重要になった。 なぜなら、ブリヴラの末尾が母音のペアで終わっても良いことになったからだ。 そうなると、末尾の母音ペアが2音節かどうかで、そのブリヴラの中のアクセントの位置が異なる。
Loglan の設計者 James Cooke Brown は、自分の発音しやすさに基づいて、「aa, ee, oo は常に2音節で、そのうちの1音節が必ずアクセントを持つ」「ae, au, ea, eo, eu, oa, oe, ou は常に2音節で、アクセントは無くても良い」「iV, uV は1音節の二重母音でも、2音節の母音でも良い」とした。この最後の条件は、同じ単語のアクセント位置が話者次第で異なることを許す (例:"mEkykiu" と "mekykIu")。 この二面性は話者たちにとって受け入れがたいものだった。
Loglan からロジバンが分離したのは、言語の設計方針を変更し単語を定義し直すためであって、単語の区切りを変更するためではなかったから、単語の区切りに関しては Loglan の方法をできるだけ踏襲した。ただし、もっと言語学的に形式的に、そして非〈アメリカ英語〉寄りになるように手を加えた。 その際に、許される二重母音に関しても明文化した。 Loglan で必ず単音節として扱われる ai, ei, oi を、ロジバンの二重母音として採用した。Loglan では ao も単音節だが、ロジバンでは言語的な正確さを追求して au という二重母音に変えた。そのほか、 Loglan では2音節にも単音節の二重母音にもなり得る母音のペアは、 ロジバンでは二重母音の VV シマヴォとしてのみ許すことにした。 母音のペアをアポストロフィによって2音節に分ければ、シマヴォになれる語形が増えるので、この案は採用した。 他の eu などの二重母音を認めることも検討したが、歴史的な整合性を考慮して見送った。

音節子音

どの l, m, n, r でも音節主音 [l̩], [m̩], [n̩]/[ŋ̩], [r̩]/[ɹ̩]/[ɾ̩]/[ʀ̩] として発音して良いが、普通はロジバン化された名前や借用語に使われる。

5. 母音のペア

音節は分かれるが、続けて発音される母音:アポストロフィ([h] 音)で区切られる。
 
        a'a   a'e   a'i   a'o   a'u   a'y
        e'a   e'e   e'i   e'o   e'u   e'y
        i'a   i'e   i'i   i'o   i'u   i'y
        o'a   o'e   o'i   o'o   o'u   o'y
        u'a   u'e   u'i   u'o   u'u   u'y
        y'a   y'e   y'i   y'o   y'u   y'y
ai, ei, oi, au など、アポストロフィが無いと二重母音になる組もある。

母音が3つ以上連続する場合は、先に出てくる2つが優先的にペアとして扱う。

5.1)   meiin.
       mei,in.
例 5.1 は二重母音 "ei" とそれに続く母音 "i" からなる。異なる母音のまとまりを表すにはコンマを用いる。
5.2)   me,iin.
これは、母音 "e"とそれに続く二重母音 "ii" からなる。

おおよそ英語で表すとすれば、例 5.1は "May Een"であり、例 5.2は"Meh Yeen"と書ける。

# 例5.1, 5.2のどちらにおいても"e"と"i"に挟まれた"i"は[j]として読まれるため、発音自体は同じである。

6. 子音連結

ロジバン化された名前では、4個以上の子音が連結できる。 それ以外の単語では3個まで。

子音が連結するための条件:
1)
同じ子音の連結([ss], [kk] など)は禁止
2)
有声子音と無声子音との連結は禁止。ただし、l, m, n, r はどの子音とも連結できる。
3)
c, j, s, z は互いに連結できない。
4)
“cx”, “kx”, “xc”, “xk”, “mz” という連結は禁止。
禁止されている子音連結を含む名前をロジバン化する場合は、子音の間に y を挿入して子音連結を分離する。
lujvo を作るために y を挿入する例:
bisydja:bis (bisli) + dja (cidja) 氷食品
s は無声子音、 d は有声子音なので、連結できない。

7. 語頭の子音ペア

ロジバン化された名前以外の単語では、第6節の条件に加え、以下の条件が加わる。
# 第6節と第7節の子音のペアについてまとめると、以下の表のようになる。
#
子音ペア と 語頭の子音ペア
r l n m b v d g j z s c x k t f p
r rl rn rm rb rv rd rg rj rz rs rc rx rk rt rf rp
l lr ln lm lb lv ld lg lj lz ls lc lx lk lt lf lp
n nr nl nm nb nv nd ng nj nz ns nc nx nk nt nf np
m mr ml mn mb mv md mg mj ms mc mx mk mt mf mp
b br bl bn bm bv bd bg bj bz
v vr vl vn vm vb vd vg vj vz
d dr dl dn dm db dv dg dj dz
g gr gl gn gm gb gv gd gj gz
j jr jl jn jm jb jv jd jg
z zr zl zn zm zb zv zd zg
s sr sl sn sm sx sk st sf sp
c cr cl cn cm ck ct cf cp
x xr xl xn xm xs xt xf xp
k kr kl kn km ks kc kt kf kp
t tr tl tn tm ts tc tx tk tf tp
f fr fl fn fm fs fc fx fk ft fp
p pr pl pn pm ps pc px pk pt pf

8. 子音連結の緩衝

9. 分節法とアクセント

アクセントの種類: 第1(強)・第2(中)・弱

10. 英語話者のための IPA 解説

一般アメリカ語話者と、イギリスの容認標準英語話者向けの諸注意。
# 日本語話者にとって注目すべきところは、このレジュメの第2節の表に書き込んだ。

11. ロジバン二重母音の英語からの類推

英語話者のための二重母音の説明。

12. 変わった綴り方

これまで述べた方法とは別の綴り方が存在する。