第10章
架空の旅: ロジバンの間制システム

1. はじめに

この章ではロジバンの間制システム(訳注: 「間制」とは時制を時空間へ拡張したものである)をその内側から解説することにより、ロジバン使用者がそれらを使えるようにすることを目的とする。

本章は CLL で最も長い章であり、間制システムは複雑に感じるかもしれないが、時制というのは本来複雑なものである(外国語の時制に精通するのは上級レベルである)ロジバンの間制は非常に規則的で生産的である。.

「時制」とは、英語などの言語における動詞の属性であり、動作の時間を表すものである。伝統的には現在・過去・未来、および組み合わせ時制がある。しかし、形との間に規則性は無く、

       I go to London tomorrow.
       I will go to London tomorrow.
       I am going to London tomorrow.
は全て同じ意味を表す。新聞の見出しでは、“JONES DIES” のように、過去のことも現在形で表す。英語では動詞に時制が必須であるが、ロジバンではブリヴラに暗黙的に間制が付くことはない。

ロジバンでは、動詞のようなセルブリに限らず、全てのセルブリに間制の概念がある。また、「間制」には時間だけではなく空間の情報も含まれる。

1.1)   mi klama le zarci
       私 ~へ行く その 市場
の意味は、
      市場へ行った。
      市場へ行くところだ。
      市場へ行ってしまった。
      市場へ行くつもりだ。
      ずっと市場へ行く。
のいずれでもありえる。

間制句の場所は、セルブリの前、 "cu" のすぐ後であり、 "cu" を置き換えられる。

1.2)   mi cu pu klama le zarci
       mi pu klama le zarci
       私 過去に ~へ行く その 市場
       私は市場へ行った

"ku" を後ろに付けることにより、間制をブリディの他の場所へ挿入することができる。この "ku" は、それがブリディの最後にある場合を除き、省略不可能である:
1.3)   puku mi klama le zarci
       過去に 私 ~へ行く その 市場
       以前、私は市場へ行った

1.4)   mi klama puku le zarci
       私 ~へ行く 過去に その 市場
       私は以前市場へ行った

1.5)   mi klama le zarci pu [ku]
       私 ~へ行く その 市場 以前に
       私は市場へ行った、以前に。
以上の例は意味は同じであるが、文頭・文末に置くと動かした単語が強調される。

2. 空間制: FAhA と VA

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     vi      VA                  短距離
     va      VA                  中距離
     vu      VA                  長距離

     zu'a    FAhA                左
     ri'u    FAhA                右
     ga'u    FAhA                上
     ni'a    FAhA                下
     ca'u    FAhA                前
     ne'i    FAhA                内側
     be'a    FAhA                北

間制システムは空間系のものから理解した方が簡単であるため、本節ではこれらを先に取り上げる。

ロジバンでは、時間と空間は相互交換可能であるが、全く同一に扱われるわけではない。

ロジバンでは、セルマホ FAhA と VA の単語を使い、話し手から参照している場所への「架空の旅」というものを仮定してブリディの空間制を記述する。 FAhA シマヴォ は方向、 VA シマヴォは距離を指定する:

2.1)   le nanmu va batci le gerku
       その 男 [中距離] 噛む その 犬.
       向こうで男が犬を噛んでいる
ここでは、話者の場所から、ブリディで指定されている「男が犬を噛んでいる」という出来事の場所まで「架空の旅」をするならば、それは中距離の「旅」(方向は不特定)になるということを言っている。

FAhA シマヴォ の例も見てみよう:

2.2)   le nanmu zu'a batci le gerku
       その 男 [左] 噛む その 犬.
ここでは、架空の旅は話者の場所からブリディの場所まで行くが、ここでは(話者から見て)左に、不特定の距離「旅」をすることになる。意味は、
       左で、男が犬を噛む。
となる。

(“zu'a” はギスム “zunle” (左)から来ており、“vi”, “va”, “vu” は “ti”, “ta”, “tu” (これ、それ、あれ) に対応するようになっている)

両方を指定する場合、方向が距離の前に来る:

2.3)   le nanmu zu'avi batci le gerku
       その 男 [左] [短距離] 噛む その 犬.
       左のすぐそこで、男が犬を噛む.

ku を使って文頭・文末に持ってくることもできる:

2.4)   zu'aviku le nanmu cu batci le gerku
       [左] [短距離] その 男 噛む その 犬.
       左のすぐそこで、男が犬を噛む.

3. 複合空間制

「架空の旅」によって間制を捉えるメリットはどこにあるのだろうか。それは、いわゆる「複合間制(複数のFAhA)」が入ってきたときにさらに有用なものになる:

3.1)   le nanmu ga'u zu'a batci le gerku
       その 男 [上] [左] 噛む その 犬.
ここで、架空の旅は2つの段階、まず話者の場所から上に行き、そして左に行く、から構成される。翻訳は:
       上の空間の左の方で、男が犬を噛む.
(男がマンホールの底、犬が通りの端っこに居るのかもしれない)

英語に訳した時は "Left of a place above me" というように上と左が逆になる。これからも、ロジバン間制の英語翻訳を覚えてもあまり意味が無いことが分かる。

この場合、順番が逆でも同じである:

3.2)   le nanmu zu'a ga'u batci le gerku
       その 男 [左] [上] bites その 犬.
       左の空間の上の方で、男は犬を噛む.
通常の空間では上→左と移動するのと左→上と移動するのと同じであるが、すべての場合に成り立つわけではない(北極点から南→東→北と移動すると元の点に戻る)

方向の後に距離を指定することもできる

3.3)   le nanmu zu'avi ga'uvu batci le gerku
       その 男 [左] [短距離] [上] [長距離] 噛む その 犬.
       少し左の空間のずっと上の方で、男が犬を噛む.
間制句の最初に距離を単体で置いてもよい。(例 2.1)
3.4)   le nanmu vi zu'a batci le gerku
       その 男 [短距離] [左] 噛む その 犬.
       近くの場所の左で、男は犬を噛む.
方向をいくつ指定してもよい:
3.5)   le nanmu ca'uvi ni'ava ri'uvu ne'i
            batci le gerku
       その 男 [前] [短距離] [下] [中距離] [右] [長距離] [内側]
            噛む その 犬.
       少し前のいくぶんか下のずっと右の方の内側で、男が犬を噛む.

4. 時間制: PU と ZI

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     pu      PU                  過去
     ca      PU                  現在
     ba      PU                  未来

     zi      ZI                  短期間
     za      ZI                  中期間
     zu      ZI                  長期間

時間制は空間制と基本的に同じであり、1) セルマホ FAhA and VA の代わりに、セルマホ PU と ZI を使うこと 2) 時間系と空間系シマヴォを同時に使う場合、時間の方を先に置くこと、を覚えておけばよい。

4.1)   le nanmu pu batci le gerku
       その 男 [過去] 噛む その 犬。
       男は犬を噛んだ。
ここで意味するのは、時空間を過去の方向に不特定の期間「架空の旅」をして、その「犬噛み」出来事に着くということである。

時間の方向には “pu” “ca” “ba” があり、これらはそれぞれギスム “purci” (過去) “cabna” (現在) “balvi” (未来) から来ている。空間的方向は、絶対的・相対的なものや、 「周囲」「内側」「接触」などの「方向的」 な FAhA シマヴォ があるが、時間軸には前と後ろの2つの方向しかない。なぜ PU のシマヴォには3つあるのだろうか?

理由は、「今」という概念が、近い過去・近い未来の一部を含んでおり、ロジバンの設計でも「ゼロ方向」を取り入れているからである。(空間でも “bu'u”「一致」が用意されている)

(相対性理論について注: ロジバンの時間制では、話者を「点観察者」として見なす。物理的関係や、因果関係については何も意味していなく、間制の概念は観察者の主観によるものである。)

4.2)   le nanmu puzi batci le gerku
       その 男 [過去] [短期間] 噛む その 犬
       少し前に、男は犬を噛んだ。

4.3)   le nanmu pu pu batci le gerku
       その 男 [過去] [過去] 噛む その 犬
       少し前の前に、男は犬を噛んだ。
       男は犬を噛んだところだった。

4.4)   le nanmu ba puzi batci le gerku
       その 男 [未来] [過去] [短時間] 噛む その 犬
       未来のある時間の少し前、男は犬を噛むだろう。
       男は犬をちょうど噛んだところであろう。
VA と同様に、 PU を伴わずに最初に ZI を言うこともできる。
4.5)   le nanmu zi pu batci le gerku
       その 男 [短期間] [過去] 噛む その 犬.
       今から少し後もしくは前の前の時間に、男は犬を噛む/噛んだ。

4.6)   le nanmu zu batci le gerku
       その 男 [長期間] 噛む その 犬.
       今からずっと前もしくはずっと後に、男は犬を噛む/噛んだ。
例4.5 の例は完全に正しいが、あまり使われないかもしれない(過去・未来のどちらでもありうる)。意味としては、“厳密に今ではない今”ぐらいのものである。

これらの例は、空間と違って時間軸を自由に移動できないため奇妙に感じるかもしれないが、それらを自由に生産的に組み合わせることができ、これが英語の限界になっているかもしれない。

時間制・空間制を組み合わせることもできる:

4.7)   le nanmu puzu vu batci le gerku
       その 男 [過去] [長期間] [長距離] 噛む その 犬.
       ずっと前、遠くで、男は犬を噛んだ。
4.8)   le nanmu batci le gerku puzuvuku
       その 男 噛む その 犬 [過去] [長時間] [長距離].
       男は犬を噛んだ、ずっと前、遠くで。

5. 範囲の広さ: VEhA と ZEhA

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     ve'i    VEhA                小空間範囲
     ve'a    VEhA                中空間範囲
     ve'u    VEhA                大空間範囲

     ze'i    ZEhA                小時間範囲
     ze'a    ZEhA                中時間範囲
     ze'u    ZEhA                大時間範囲

これまでの出来事は時間・空間上の「点」であったが、実際の出来事は「広がり」を持つのが普通である。例えば “mi vasxu” (私は呼吸する) は、生きてから死ぬまで、生活するあらゆる地点で有効である。シマヴォ VEhA (空間) と ZEhA (時間) を間制句に追加して、広がりのサイズを指定できる:

5.1)   le verba ve'i cadzu le bisli
       その 子供 [小空間範囲] ~を歩く その 氷.
       小さい空間内で、子供が氷の上を歩く。
       子供は、氷の小さい範囲を歩く。
空間範囲にも “小・中・大”があるが、これは文脈依存である。例えば、部屋に対する小空間範囲は机にとって大空間範囲かもしれない。

5.2)   le verba ze'a cadzu le bisli
       その 子供 [中時間範囲] ~を歩く その 氷。
       いくぶんの間、子供は氷の上を歩いた/歩く/歩く(つもりだ)。
この場合、いつ歩くことが起きた(起こる)かは分からない。方向・距離と範囲を同時に指定する場合は、範囲が後に来る:
5.3)   le verba pu ze'a cadzu le bisli
       その 子供 [過去] [中時間範囲] ~を歩く その 氷.
       いくぶんかの間、子供は氷の上を歩いた。
       子供は氷の上をしばらく歩いた。
例5.3 では、範囲と時間との関係は不特定である。方向シマヴォを範囲の後に付けると、その期間の「中心」がどこにあるかはっきりする:

5.4)   mi ca ze'ica cusku dei
       I [今] [短時範囲 – 今] 表現する この発話
       私は今この発話を言っている
ここでも、「短時間」というのは相対的であり、長い文も一日からしたら短い時間であるし、地学的に見ればホモ・サピエンスの時代も “ze'i” 期間でしかないであろう。

一方、

5.5)   mi ca ze'ipu cusku dei
       私 [現在] [短時範囲 – 過去] 表現する この発話
       ちょうど今この発話を言っていたところだ
では、出来事は過去に始まり、この例を表現している現在まで続く。
5.6)   mi pu ze'aba citka le mi sanmi
       I [過去] [中時範囲 - 未来] 食べる 私の 食事
       その後少しの時間、私は食事を食べた
       その後しばらく私は食事を食べた
5.7)   mi pu ze'aca citka le mi sanmi
       私 [過去] [中時範囲 – 現在] 食べる 私の 食事
       その前とその後の少しの時間、私は食事を食べた
       その時しばらく私は食事を食べた

上の2つの例文は英語にすると全く同じになってしまう。

下の2つは、空間範囲と方向の例である:

5.8)   ta ri'u ve'i finpe
       あれ [右] [小空間範囲] 魚
       右のあれは魚である。
この例文では、 魚が占めている“小空間範囲”に対応する訳文が無い。魚の方向はロジバンでも、その訳文でも明示されていない。
5.9)   ta ri'u ve'ica'u finpe
       あれ [右] [小空間範囲 – 前] 魚
       右の、前に伸びているあれは魚である。

とすれば、魚が右のある点から前に伸びているということを明示できる。

6. 曖昧な範囲と不定間制

ロジバンの規則では、範囲の大きさが与えられて無い場合、時間/空間範囲は話者によってあいまいにされていると解釈される:

6.1)   mi pu klama le zarci
       私 [過去] ~へ行く その 市場.
の意味するところは、
       過去のある点において、そして、他の時間についてももしかすると、
       “私は市場に行った”という出来事が進行している/いた
ということである。ここで、出来事は過去のある点を含んではいるが、現在や未来に及んでいる可能性もある。 英語で「I went to the market」と言う場合、市場に行ったという出来事は完全に過去のことだが、ロジバンではそういった含意は無い。

この過去形の性質は、古代ギリシャ語の同様のシステムから “アオリスト”と呼ばれる。ロジバンの全ての間制は同じ性質を持つ:

6.3)   le tricu ba crino
       その 木 [未来] 緑
       その木は緑になるだろう。
という文は、「今は緑ではない」ということを含意しない。

もちろん、ロジバンに「今は緑ではないが、将来緑になる」と言う方法が無いわけではない。10節の事象線と20節の間制の論理接続を参照のこと。

7. 次元: VIhA

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     vi'i    VIhA                直線的に
     vi'a    VIhA                平面上に
     vi'u    VIhA                立体的に
     vi'e    VIhA                時空軸上に

時間と異なり空間は多次元的であるため、ロジバンでは、例えば何かが小空間範囲で動くだけではなく、直線的に動く、平面上を動く、などと表現できる。

氷の上を歩く子供を例に取ってみよう。氷というものの性質を考えると、平面上という解釈が最も自然である。

7.1)   le verba ve'a vi'a cadzu le bisli
       その 子供 [中空間範囲] [2次元的に] ~を歩く その 氷.
       子供がある程度の平面範囲の氷の上を歩く。

空間範囲は、 VEhA と VIhA の両方を含むことができるが、その場合 VEhA が最初に来る必要がある。

ここで、子供は3次元物体であるので、「歩く」という出来事は3次元的であると哲学的疑問を持つ読者もいるかもしれない。ただ、ロジバン間制は主観的なものであり、認知的なものが決定するため、「高さ」は歩く出来事に無関係である。「登山」のような場合も “vi'a” かもしれない。飛行や複数の山を登る場合などは “vi'u”が適切であろう。

“vi'e” を使って、時空間の両方が絡む4次元的範囲を指定できる。時間制シマヴォと“vi'e” 範囲が同時に使われた場合矛盾が生じるかもしれない。

8. 空間の動き: MOhI

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     mo'i    MOhI                動きフラグ

これまでに見てきた間制句は静的な出来事を前提としていた。ブリディが「動作」を前提としている場合、シマヴォ “mo'i” に向きや距離を組み合わせて表せる。この場合、方向は話者からの方向ではなく動きの方向となる:

8.1)   le verba mo'i ri'u cadzu le bisli
       その 子供 [動き] [右] ~を歩く その 氷.
       子供は氷の上を私の右方向に歩く。
以下との違いに注意されたい:
8.2)   le verba ri'u cadzu le bisli
       その 子供 [右] ~を歩く その 氷.
       私の右で、子供は氷の上を歩く。
どちらの例も、「左右」は話者から見て、であり、子供から見て、ではない。これを変えるには、
8.3)   le verba mo'i ri'u cadzu le bisli ma'i vo'a
       その 子供 [動き] [右] の上を歩く その 氷 ~の参照フレームで x1の場所
       子供は、(子供の)右側に向かって氷の上を歩く。
として、セルマホ BAI に属するシマヴォ “ma'i”(9章で説明) を使う。

通常の空間制と“mo'i”フラグのついた空間制を、“mo'i”句が最後に来るようにして結合できる:


8.4)   le verba zu'avu mo'i ri'uvi cadzu le bisli
       その 子供 [左] [長距離] [動き] [右] [短距離] ~を歩く その 氷.
       (私の)はるか左の方で、子供は(私の右に向かって)少し氷の上を歩く。

以下は、動き間制句を内在的に動作とは関係ないブリディと共に使った場合である:

8.5)   mi mo'i ca'uvu citka le mi sanmi
       私は [動き] [前] [長距離] 食べる 私の 食事.
       前に向かって長い距離を移動している間、私は食事を取る。
(話者は飛行機内で食事をしているのかもしれない)

時間に対応する動きフラグは無いが、もし有用なら追加されるかもしれない。

9. 範囲性質: TAhE と “roi”

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     di'i    TAhE                規則的に
     na'o    TAhE                典型的に
     ru'i    TAhE                継続的に
     ta'e    TAhE                習慣的に

     di'inai TAhE                不規則的に
     na'onai TAhE                非典型的に
     ru'inai TAhE                断続的に
     ta'enai TAhE                反習慣的に

     roi     ROI                 “n” 回
     roinai  ROI                 “n” 回以外

     ze'e    ZEhA                時間範囲全体
     ve'e    VEhA                空間範囲全体

範囲を指定した場合、その範囲に均等に広がっていないかもしれない。セルマホ TAhE のシマヴォを使って、継続・非継続的な動作を表せる:

9.1)   mi puzu ze'u velckule
       私 [過去] [長距離] [大時間範囲] 学校の出席者 (生徒).
       ずっと昔、私は長い時間学校へ通った。
これの意味するところは、その「昔」の期間中ずっと(休み中も每日)学校へ行ったという訳ではないであろう。もっと厳密には、
9.2)   mi puzu ze'u di'i velckule
       私 [過去] [長距離] [大時間範囲] [規則的に] 学校の出席者 (生徒).
       ずっと昔、私は規則的に長い時間学校へ通った。

4つの TAhE シマヴォの違いは、以下の通りである: “ru'i” は範囲の全体をカバーし、 “di'i”は範囲のうち、規則的に並んだサブ範囲をカバーする。“na'o” は文脈によって決まる範囲をカバーし、“ta'e” は動作主の振る舞いによって決まる範囲をカバーする。

時間の方向や範囲を省略することもできる:

9.3)   mi ba ta'e klama le zarci
       私 [未来] [習慣的に] ~へ行く その 市場.
       私は習慣的に市場へ行くつもりだ。
       私は市場に行くのを習慣にするつもりだ。
この場合、期間は不定である。さらに、
9.4)   mi na'o klama le zarci
       私 [典型的に] ~へ行く その 市場.
       私は市場に典型的に行った/行く/行くつもりだ。
          (訳注:典型的=「市場に行く」という出来事の参照フレームに基づいて。例えば毎週買い出しに行くなど。)
は範囲性質のみを使っている。この場合、時間の方向・範囲は曖昧であり、文脈によって決まる。

「断続的に」は「継続的に」の正反対であり、否定の接尾辞 “-nai” を “ru'i” に付けて表される。例:

9.5)   le verba ru'inai cadzu le bisli
       その 子供 [継続的に-否定] ~を歩く その 氷.
       子供は断続的に氷の上を歩く。
表に示した4つのシマヴォの全てが -nai で否定できるが、“ru'inai” と “di'inai” がおそらく最も有用なものであろう。

断続的な出来事は、roi を使ってその起こった回数を数えることでも指定できる。量子化間制は英語では(名前を除いて)一般的であり、“never”, “once”, “twice”, “thrice”, ... “always” などの副詞や “many times”, “a few times”, “too many times” などのフレーズで表される。

9.6)   mi paroi klama le zarci
       私 [1回] ~へ行く その 市場.
       私は1回市場へ行く

9.7)    mi du'eroi klama le zarci
       私 [何回も] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ何回も行く
9.8)   mi pu reroi klama le zarci
       私 [過去] [two times] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ2回行った(ことがある)
ここで、2回の出来事が両方とも過去に起こったことを示唆する訳文とは違い、ロジバンでは範囲を明示していないのでそれは必ずしも正しくはない。

“-nai” を “roi” につけて、“n” 回以外という意味を表せる。

9.9)   le ratcu reroinai citka le cirla
       その ねずみ [2回-否定] 食べる その チーズ
       ねずみはチーズを2回は食べなかった。

ここで、例9.8の本当に意味するところは、不定の範囲の期間があり、その少なくとも一部は過去で、その間に市場に行くという出来事が2回ある、という意味である。もし市場に1回しか行っていないという場合には、「時間範囲全体」を表すシマヴォ “ze'e” を使う:

9.10)  mi ze'e paroi klama le zarci
       私 [時間範囲全体] [1回] ~へ行く その 市場.
ZEhA が無い場合範囲は不定であるため、例9.8 は文脈によっては例9.10 と同じかもしれないが、例9.10 は必要に応じてそれを具体的に述べたものである。

PU シマヴォ が “ze'e” に続く場合、 他の ZEhA シマヴォとは少し違う意味になる。複合シマヴォ “ze'epu”は、無限の過去から参照点(架空の旅)への範囲を表す。“ze'eba”は参照点から無限の未来へと伸びる。“ze'eca”は “時間全体”の概念を明確にする。

9.11)  mi ze'epu noroi klama le zarci
       私 [時間範囲全体] [過去] [一度も] ~へ行く その 市場.
       市場に一度も行ったことがない。
上の例文は、未来にいくかどうかについては何も言っていない。

“ze'e” の空間版は “ve'e” であり、空間範囲の説明は 11 節で取り上げる。

10. 事象線: ZAhO と “re'u”

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     pu'o    ZAhO                起動相(将前相) 
     ca'o    ZAhO                進行相 
     ba'o    ZAhO                完了相 
     co'a    ZAhO                開始相 
     co'u    ZAhO                停止相 
     mo'u    ZAhO                終了相 
     za'o    ZAhO                延続相 
     co'i    ZAhO                到達相 
     de'a    ZAhO                休止相 
     di'a    ZAhO                再開相 

     re'u    ROI                 順序間制 

セルマホ ZAhO は「相」と呼ばれるものを扱う。(「相」は、中国語やロシア語などでは時制よりも重要であるとみなされている)

「事象線」は、出来事を過程として見た場合の部分に対応する。以下でそれぞれを詳しく解説する。ZAhO は TAhE や ROI などと同様範囲を表す修飾詞であり、一つの間制句の中に置く場合には TAhE/ROI の後に来る。

ZAhO シマヴォは他の間制シマヴォとは異なり、出来事の「部分」を表すもので時間(現在・過去・未来)とは無関係であり、PU と混同しないように注意すること。

“pu'o”, “ca'o”, “ba'o” のシマヴォは、PU シマヴォから派生しており、それぞれ出来事の開始前、進行中、完了後を表す:

10.1)  mi pu'o damba
       私 [起動相] 闘う
       私はまさに闘うところだ


10.2)  la stiv. ca'o bacru
       スティーブ [進行相] 発話
       スティーブは話し続ける

10.3)  le verba ba'o cadzu le bisli
       その 子供 [完了相] ~を歩く その 氷.
       子供は、氷の上を歩き終わった
節6で、PU シマヴォは過去・未来・現在がどこまで及んでいるか仮定しないと述べたが、ここで仮定を明確にすることができる。例えば、10.1 の出来事はまだ始まっていなく、10.3の出来事はもう終わっている。

ここで、pu'o と ba'o が逆、例えば、例10.1 では未来のことなのに(過去の pu を語源にした)pu'o を使うのは逆だと思えるかもしれないが、これは ZAhO シマヴォが出来事を中心として考えているからである。なお、例文 10.1が未来のことを表しているというのは聞き手の推論によるもので、起動相が話者の現在と重なるとは限らない。(ほとんどの場合 “ca pu'o” と同じ意味であるが、そうではない時もある).

上記3つのシマヴォは時間のスパンを表す。一方、“co'a”(出来事の開始) は “pu'o”と“ca'o” の境界点を、“co'u” (出来事の停止)は、 “ca'o” と “ba'o”の境界点を表す:

10.4)  mi ba co'a citka le mi sanmi
       私 [未来] [開始相] 食べる 私の 食事
       私は食事を食べはじめる

10.5)  mi pu co'u citka le mi sanmi
       私 [過去] [停止相]  食べる 私の 食事
       私は食事を食べるのをやめた
以下の例は、TAhE と ZAhO の組み合わせの例である:
10.6)  mi ba di'i co'a bajra
       私 [未来] [規則的に] [開始相] 走る
       私は規則的に走り始める

出来事には、「自然な終了」 (完了点) と、「実際の終了点」 (完了かどうかにかかわらず)の2つの終了点があり得る。例10.5では、単に食事をストップしただけであるが、例10.7 では、「自然な終了」に達している。

10.7)  mi pu mo'u citka le mi sanmi
       私 [過去] [終了相] 食べる 私の 食事
       私は食事を食べ終わった

出来事には他にも、何らかの割り込みにより中断する場合もある。中断の直前は“de'a”、中断の直後は“di'a”によって表される。例:

10.8)  mi pu de'a citka le mi sanmi
       私 [過去] [休止相] 食べる 私の 食事
       私は食事を食べるのを一旦やめた

10.9)  mi ba di'a citka le mi sanmi
       I [未来] [再開相] 食べる 私の 食事
       私は食事を食べるのを再開する

「自然な終了」を超えて出来事が継続する場合、“za'o”を使って表す:

10.10) le ctuca pu za'o ciksi le cmaci seldanfu le tadgri
       その 先生 [過去] [延続相] 説明 その 数学 問題 生徒グループ
       先生は、生徒達に数学の問題を延々と説明した

シマヴォ “co'i”を使い、出来事全体を単一の瞬間として扱える:

10.11) la djan. pu co'i catra la djim
       ジョン [過去] [到達相] 殺す ジム
       ジョンは、彼がジムを殺したという時間に居た
出来事は繰り返すことができるので、個別の出来事は数字に “re'u”をつけて表す。
10.12) mi pare'u klama le zarci
       私 [初めて] ~へ行く その 店.
       私はその店へ初めて行く (不定の期間内において)

以下2つの違いに注意しよう:
10.13) mi pare'u paroi klama le zarci
       私 [初めて] [1回] ~へ行く その 店.
       初めて、その店に1回行く
10.14) mi paroi pare'u klama le zarci
       I [1回] [初めて] ~へ行く その 店.
       その店に初めて行くという機会が1回ある

11. 空間範囲性質修飾子: FEhE

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:
     fe'e    FEhE                空間範囲性質修飾子

時間のように、空間にも連続・断続・繰り返しの範囲性質の概念があるが、それ専用のシマヴォを用いるのではなく、“fe'e” を時間範囲性質シマヴォの前に付ける。空間範囲性質は、空間範囲や次元シマヴォの後に付ける:

11.1)  ko vi'i fe'e di'i sombo le gurni
       あなた-命令 [1次元] [空間:] [規則的に] 蒔く その 穀物
       穀物を、一直線上に、均等に蒔きなさい

11.2)  mi fe'e ciroi tervecnu lo selsalta
       私 [空間:] [3回] 買う その サラダの材料
       私はサラダの材料を3箇所で買う

11.3)  ze'e roroi ve'e fe'e roroi ku
            li re su'i re du li vo
       [時間範囲全体] [いつも] [空間範囲全体] [空間:] [どこでも]
            数字 2 + 2 = 数字 4
       いつでも、どこでも、2+2=4 だ

例11.3のように、セルブリ (この場合は “du”) の前以外に来る間制句は、強調である。

“fe'e” は ZAhOと一緒にも使える:

11.4)  tu ve'abe'a fe'e co'a rokci
       あれ [中空間範囲] [北] [空間:] [開始相] 岩
       あれは(自分の)北に伸びる岩の開始点である
       =あれは南側の岩肌だ
ここで、時間の開始点の概念が、空間の開始点へ転用されている。ただし、空間は時間とは異なり一方通行ではないので、 “ve'abe'a”などの「方向」の概念が必要となる。

時間を空間にたとえて話す言語は多い。例えば、英語では過去は我々の「後ろ」にあるが、それが逆の言語もある(訳注:アイマラ語など)。ロジバンでは空間を時間でたとえている。VEhA + FAhA シマヴォが、どの方向を「未来」に対応づけるかを決める。

TAhE (もしくは ROI) と ZAhO が範囲性質として使われている場合、“fe'e”フラグは全てにつけなければならない。

12. 法制スムティとしての間制

ここまで、間制について、セルブリの前もしくはブリディ内に“ku”を伴い「浮いて」いる用法しか見てこなかった。その他に、法制スムティすなわち項タグとしての用法もある。間制は、ブリディに、場所を追加して時空間的情報を付加する:

12.1)  mi klama le zarci ca le nu do klama le zdani
       私 ~へ行く その 市場 [今] その 出来事 あなた ~へ行く その 家
       あなたが家に行くとき、私は市場に行く
ここでの “ca” は、 “le nu”句のスムティを伴っている。例12.1 の例は、主ブリディが、そのスムティの時間と同時に起こっているということを示している。つまり、“ca”がスムティと一緒に使われた時は“~と同時に”という意味になる。
12.2)  mi klama le zarci pu le nu do pu klama le zdani
       私 ~へ行く その 市場 [過去] その 出来事 あなた [過去] ~へ行く その 家
2個目の“pu”は単に「あなたが家に行った」という出来事の過去マーカーだが、この場合、法制スムティ “pu” はどのように理解すれば良いだろう。

これまでの架空の旅は、話者の時間・場所からスタートした。この場合、「あなたが家に行った」という出来事からスタートする。なので、例12.2 は、私が市場へ行くのは、話者の現在から見て、ではなく、あなたが家に行った時から見て、過去のことであると主張している。訳は、

       あなたが家に行く前に、私は市場に行ってしまった。
空間の方向や距離を表すものも同様である(訳注:現在では解釈が変わり、vi/va/vuの法制スムティでは起点ではなく距離の基準を表す。英語版メーリングリストの議論を参考。):
12.3)  le ratcu cu citka le cirla vi le panka
       その ネズミ 食べる その チーズ [短距離] その 公園.
       ネズミは公園ほど離れたところでチーズを食べる。(注:新解釈)

12.4)  le ratcu cu citka le cirla vi le vu panka
       その ネズミ 食べる その チーズ [短距離] その [長距離] 公園
       ネズミは離れたあの公園の大きさほど離れたところでチーズを食べる。(注:新解釈)

12.5)  le ratcu cu citka le cirla vu le vi panka
       その ネズミ 食べる その チーズ [長距離] その [短距離] 公園
       ネズミは近くのこの公園の大きさほど離れた遠いところでチーズを食べる。(注:新解釈)
ZAhO の事象線は、法制スムティとしても使える。この場合、スムティは過程としてみなされ、その過程の ZAhO で示されている段階で主ブリディが起こったということになる。
12.6)  mi morsi ba'o le nu mi jmive
       私 死ぬ [完了相] その 出来事 私 生きる
       私は生きた後、死ぬ。
この場合、私が死ぬのは、「私が生きる」という出来事の一部であり、出来事が完了した時に起こるものである。一方、
12.7)  mi morsi ba le nu mi jmive
       私 死ぬ [未来] その 出来事 私 生きる
6節で説明したように、この例文では生きるのが完了する前に死ぬ可能性もある。 同様に、
12.8)  mi klama le zarci pu'o le nu mi citka
       私 ~へ行く その 店 [起動相] その 出来事 私 食べる

では、食べる前に、
12.9)  mi klama le zarci ba'o le nu mi citka
       私 ~へ行く その 店 [完了相] その 出来事 私 食べる
では、食べた後に、その店に行くことを意味する。
12.10) le bloti pu za'o xelklama
             fe'e ba'o le lalxu
       その ボート [過去] [延続相] 交通機関
             [空間:] [完了] その 湖
       ボートは、延々と、湖を超えて延々と進んだ。
これは、時制の ZAhO と 空間の ZAhO を両方使った例である。埠頭まで行ってしまったのかもしれない。ここで “xelklama” は、単純に「交通機関である」ということを表すのではなく、この文のブリディは4つ省略された項があり、物理的な移動が長く続きすぎたということを意味になっている。

範囲のサイズ・次元・継続性に関する間制シマヴォの場合、スムティは主ブリディ継続する期間を表す:

12.11) mi klama le zarci reroi le ca djedi
       私 ~へ行く その 市場 [2回] その [現在] 日.
       私は今日その市場へ2回行く/行った/行くだろう。
法制スムティとして使われる間制と、法制スムティ内の間制について混乱しないように:
12.12) loi snime cu carvi ze'u le ca dunra
       群 雪 降る [大時間範囲] その [現在] 冬.
       今年の冬の間ずっと、雪が降る
は、「今年の冬」で表す出来事が、雪が降るということを基準にして長いということを表しているが、
12.13) loi snime cu carvi ca le ze'u dunra
       群 雪 降る [現在] その [大時間範囲] 冬.
       冬に雪が降る
では、冬が続くという基準に照らして長い冬の間、ある時点において雪が降るということを表している。

13. 貼り付き・複数間制: KI

     ki      KI                  張り付き間制のセット/リセット

ki を使うと、単一のブリディを超えて、間制の効果が続くようにできる。これは「貼り付き」と呼ばれ、「引き剥が」されるまで続く。「架空の旅」のたとえで言うなら、貼り付き間制で指定された場所に「キャンプ」もしくは「道の駅」を立て、以降そこから架空の旅をスタートする。

13.1)  mi puki klama le zarci .i le nanmu cu batci le gerku
       私 [過去] [貼り付き] ~へ行く その 市場。 その 男 噛む その 犬.
       私は市場へ行った。男は犬を噛んだ。
ここでもし ki が無ければ、第2文の間制を決める手がかりは無くなる。

(ただし、14節で説明する「お話の時間」の時にはまた違った慣例が適用される)

13.2)  mi puki klama le zarci .i le nanmu pu batci le gerku
       私 [過去] [貼り付き] ~へ行く その 市場。 その 男 [過去] 噛む その 犬.
ここで、2文目の“pu”は、前の文の貼り付き間制を置き換えるのではなく、それに追加する。翻訳は、
13.3)  私は市場へ行った。男は以前に犬を噛んでいた。
となり、意味としては
13.4)  mi pu klama le zarci .i le nanmu pupu batci le gerku
       私 [過去] ~へ行く その 市場。 その 男 [過去] [過去] 噛む その 犬。
と同じになる。ちなみに、1文に間制を複数含んでいても良い:
13.5)  puku mi ba klama le zarci
       [過去] 私 [未来] ~へ行く その 市場.
       以前、私は市場へ行こうとしていた
この場合、13.4の例文のように、2つの間制は累積的だと考える。したがって、
13.6)  mi puba klama le zarci
       私 [過去] [未来] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ行くところだった
という文と(強調以外は)同じである。

以下の2つの例文は、13.5, 13.6 とそれぞれ違う意味になる:

13.7)  mi ba klama le zarci puku
       私 [未来] ~へ行く その 市場 [過去].
       私は、前に市場へ既に行っている状態だろう。

13.8)  mi bapu klama le zarci
       私 [未来] [過去] ~へ行く その 市場.
       私は、市場へ既に行っている状態だろう。
つまり、複数の間制句が単一のブリディ内にある場合は、順番が重要になる。

これを使うと、架空の旅の複数の部分を別々に指定でき、それを「貼り付け」るのに便利である。

13.9)  pukiku mi ba klama le zarci .i le nanmu cu batci le gerku
       [過去] [貼り付き] 私 [未来] ~へ行く その 市場. その 男 噛む その 犬.

ここでは、第2文の間制は pu だけであるので、訳は以下のようになる:
       私は市場へ行こうとしていた。男は犬を噛んだ。
ロジバンは、記述・抽象化・関係句など、ブリディ内にブリディ(もしくはセルブリ)を埋め込む方法があり、その場合、埋め込みブリディの間制は主ブリディに対して相対的なものになる:
13.10) mi pu klama le ba'o zarci
       私 [過去] ~へ行く その [完了相] 市場
       私は以前市場であったところへ行った。
この “ba'o”によって、「市場であったところ」すなわち既に市場ではないところへ行ったという意味になる。しかも、ba'o は pu に対して相対的に解釈されるので、市場ではなくなった時点は過去となる。

以下は抽象化を含んだ例である:

13.11) mi ca jinvi le du'u mi ba morsi
       私 [今] 思う その 事実 私 [未来] 死ぬ
       私は今、私が死ぬということを信じる。
ここで、死ぬという出来事は、思うということが起こった時すなわち現在から見て、のものである。

“ki” を単体で使うと、これまでの貼り付きを全て取り消すことができる。

複雑な記述では、 “ki” に添字を付けて保存・使用することができる。. “kixipa” (ki-sub-1) で「貼り付け」た間制は “kixipa”を指定することで間制として取り出せる。書き言葉では、著者と読者の間制は異なることが多いので、添字付き ki が便利なこともある。

14. お話の時間

13節に書いた慣例を厳密に守ろうとすると、特にお話を語る場合に大変である。お話し語る時間ではなく、お話の中での時間の流れが重要である。(ここで「お話」とは時間軸上である程度関係した一連の表明であり、架空のものとは限らない)

ロジバンでは “お話の時間”と呼ばれる異なる慣例を使い、間制を推測する。ある文の出来事は、前の文のいくらか後に起きたものだと仮定する。

以下の短いお話を使って説明しよう:

14.1)  puzuki ku ne'iki le kevna
             le ninmu goi ko'a zutse le rokci
       [過去] [長期間] [貼り付き] [,] [内側] [貼り付き] その 洞窟
             その 女 定義 それ-1 座る その 岩
       むかしむかし、洞窟の中で、女性が岩に座っていた。

14.2)  .i ko'a citka loi kanba rectu
       それ-1 [間制無し] 食べる 群 ヤギ 肉
       彼女はヤギの肉を食べていた。

14.3)  .i ko'a pu jukpa ri le mudyfagri
       それ1 [過去] 料理 最後に言ったそれ ~で その 木+火
       彼女はその肉を焚き火で焼いた。

14.4)  .i lei rectu cu zanglare
       その群 肉 心地良く・暖かい
       肉は、程良く暖かかった。

14.5)  .i le labno goi ko'e bazaki nenri klama le kevna
       その 狼 定義 それ-2 [未来] [中距離] [貼り付き] 中に来る その 洞窟
       しばらくして、狼が洞窟に入ってきた。

14.6)  .i ko'e lebna lei rectu ko'a
       それ-2 [間制無し] 取る その群 肉 それ-2
       狼は肉を彼女から取った。

14.7)  .i ko'e bartu klama
       それ-2 外側に 行く
       狼は出て行った。
ここでは、14.1 で、時間(ずっと前)と場所(洞窟)を ”ki”で指定している。以降の英語訳も、英語の慣例上、全て過去形になっている。

14.2 は間制無しで、14.1 の少し後に起こったことを示唆しており、”ki”で貼り付いた時間を少し進める。

14.3 は間制を明示しているので、14.2 より前に起こったことが分かる(14.1 より前か後かは分からない)

14.4 はまた間制が無く、14.3 の「回想」によってお話の時間は進んでいないので、14.4 は 14.2 の後に起こったものである。

14.5 は、14.4 を起点として未来を指定し、それを貼り付けている。それ以降(間制無しの 14.6, 14.7も含めて)の出来事は14.5 の後に起こったものである。

ここで最初に時間や場所を貼り付けていなければ、お話は不特定の時間・場所にセットされ、それが貼り付く(これはジョークを語る時に一般的である)。文脈によって貼り付き時間が十分に明確な場合、同じ慣例が使われることがある。

15. 従属ブリディ中の間制

英語では「時制の一致」と呼ばれるものがあり、文の時制に基づき従属節の時制を決定する:

15.1)  John says that George is going to the market.

15.2)  John says that George went to the market.

15.3)  John said that George went to the market.

15.4)  John said that George had gone to the market.

上の例を見ても分かるように、英語では、主文および従属節の時制は主文の話者を起点としている。一方ロジバンでは、ロシア語やエスペラントと同様に、従属ブリディの間制は主ブリディの間制を起点として理解される:

15.5)  la djan. ca cusku le se du'u la djordj. ca klama le zarci
       ジョン [現在] 言う その という表明 ジョージ [現在] 行く その 市場.

15.6)  la djan. ca cusku le se du'u la djordj. pu klama le zarci
       ジョン [現在] 言う その という表明 ジョージ [過去] 行く その 市場.

15.7)  la djan. pu cusku le se du'u la djordj. ca klama le zarci
       ジョン [過去] 言う その という表明 ジョージ [現在] 行く その 市場.

15.8)  la djan. pu cusku le se du'u la djordj. pu klama le zarci
       ジョン [過去] 言う その という表明 ジョージ [過去] 行く その 市場.

この中で最も直感に反するものは 15.7 であろう。”ca”とあるがジョージが市場に行くのは過去であり、これは外側の”pu”を起点としているからである。これは13節で説明した複数の間制の累積作用と同じである。

シマヴォ “nau” を使うと、これらのルールを上書きして話者の現在の参照点に戻すことができる:

15.9)  la djan. pu cusku le se du'u la .alis pu cusku le se du'u
                 la djordj. pu cusku le se du'u la maris. nau klama le zarci
       ジョン [過去] 言う その という表明 アリス [過去] 言う その という表明
                 ジョージ [過去] 言う その 表明 メアリー [今] 行く その 市場.
       メアリーは今市場に行くとジョージが言ったとアリスが言ったとジョンが言った。

16. 文間の間制関係

法制スムティを使う方法は、非対称性の問題がある。例えば、:

16.1)  le verba cu cadzu le bisli zu'a le nu le nanmu cu batci le gerku
       その 子供 ~を歩く その 氷 [左] その 出来事 その 男 噛む その 犬.
       男が犬を噛んでいる左で子供が氷の上を歩く。
ここでは、「子供が氷の上を歩く」ということを表明しているだけであり、「男が犬を噛んでいる」というのは表明ではなく参照されているだけである。両方を表明する場合、”.i”を使って主ブリディを接続する:
16.2)  le nanmu cu batci le gerku .izu'abo le verba cu cadzu le bisli
       その 男 噛む その 犬. [左] その 子供 ~を歩く その 氷.
       男が犬を噛む。その左で、子供が氷の上を歩く。
“.izu'abo” は複合シマヴォであり、: “.i” は文を分割し、 “zu'a” は間制。“bo” は “zu'a” が次のスムティとくっつくのを防ぐ。

このような後置間制接続詞を使う場合、起点を指定している文が先にくることに注意しよう。これは以下と同じ意味である:

16.3)  le nanmu cu batci le gerku
             .i zu'a la'edi'u le verba cu cadzu le bisli
       その 男 噛む その 犬.
             [左] 最後の文の内容 その 子供 ~を歩く その 氷.
       男が犬を噛む。今言ったことの左で、子供が氷の上を歩く。
もし“bo”が無いと、次のスムティとくっついてしまう。
16.4)  le nanmu cu batci le gerku .i zu'a le verba cu cadzu le bisli
       その 男 噛む その 犬. [左] その 子供 [何か] ~を歩く その 氷.
       男が犬を噛む。子供の左で、何かが氷の上を歩く。

16.2 と 16.4 を以下とを区別すること。以下の場合、起点は話者の場所・時間である:

16.5)  le nanmu cu batci le gerku .i zu'aku le verba cu cadzu le bisli
       その 男 噛む その 犬. [左] その 子供 ~を歩く その 氷.
       男が犬を噛む。私の左で、子供が氷の上を歩く。

前置によって2つの文を繋ぐこともできる。起点となる文を先に起き、間制+”gi”を頭に付ける。次の文は”gi”で分割する。

16.6)  pugi mi klama le zarci gi mi klama le zdani
       [過去] 私 ~へ行く その 市場 [,] 私 ~へ行く その 家.
       市場に行く前に、家へ行く。
スムティを並列にして間制を表現することができる:
16.7)  mi klama pugi le zarci gi le zdani
       私 ~へ行く [過去] その 市場 [,] その 家.
英語では名詞間の時制を表現できないので、「私は市場の前に家に行った」と言い換えるしかないである。

第3の方法として、ブリディ接尾(bridi-tails; スムティを伴うセルブリ。14章で説明)の間を前置によって繋げることもできる:

16.8)  mi pugi klama le zarci gi klama le zdani
       私 [過去] ~へ行く その 市場 [,] ~へ行く その 家.
       私は、市場に行く前に、家に行く。
16.7 の 16.8 でも「市場に行くこと」「家に行くこと」の関係が表明されているだけで、それぞれ実際に行くかどうかは表明されていない。

PU, ZI, FAhA, VA, ZAhO の間制それぞれについて、前置・後置の表現が可能である。以下に等価な表現をまとめた:

       後置接続:            X .i 間制 bo Y
       前置接続:            間制 gi X gi Y
       従属節:              Y 間制 le nu X
[訳注: 原文は23節の記述と矛盾するので、この訳は errata に従って修正してある。]

17. 間制論理接続

間制システムは論理接続ととも使える。論理接続については 14章で説明するが、簡単に紹介すると、17.1 から 17.3 の意味は等価である:

17.1)  la teris. satre le mlatu .ije la teris. satre le ractu
       テリー 撫でる その 猫. そして テリー 撫でる その ウサギ.

17.2)  la teris. satre le mlatu gi'e satre le ractu
       テリー 撫でる その 猫 そして 撫でる その ウサギ.

17.3)  la teris. satre le mlatu .e le ractu
       テリー 撫でる その 猫 そして その ウサギ.

猫を撫でてからウサギを撫でるという間制関係を加えたい場合、論理接続詞に間制、そして”bo”をつなげれば良い:
17.4)  la teris. satre le mlatu .ijebabo la teris. satre le ractu
       テリー 撫でる その 猫. そして 次に テリー 撫でる その ウサギ.

17.5)  la teris. satre le mlatu gi'ebabo satre le ractu
       テリー 撫でる その 猫, そして 次に 撫でる その ウサギ.

17.6)  la teris. satre le mlatu .ebabo le ractu
       テリー 撫でる その 猫 そして 次に その ウサギ.

“ke ... ke'e” (文の場合は“tu'e ... tu'u”)を使って論理接続を表すこともできる。

17.7)  mi bevri le dakli .ije tu'e mi bevri le gerku .ija mi bevri le mlatu tu'u
       私 運ぶ その 袋. そして (私 運ぶ その 犬. [どちからもしくは両方] 私 運ぶ その 猫).
       私は袋を運ぶ。そして私は犬を運ぶか、私は猫を運ぶか、その両方を運ぶ。

17.8)  mi bevri le dakli gi'eke bevri le gerku gi'a bevri le mlatu
       私 運ぶ その 袋 そして (運ぶ その 犬 [どちからもしくは両方] 運ぶ その 猫).
       私は袋を運び、犬を運ぶか、猫を運ぶか、その両方を運ぶ。

17.9)  mi bevri le dakli .eke le gerku .a le mlatu
       私 運ぶ その 袋 そして (その 犬 [どちからもしくは両方] その 猫).
       私は袋、そして犬、猫、もしくは両方を運ぶ。
この場合、袋はどちらにせよ運び、犬・猫のどちらかもしくは両方を運ぶという意味になる。

袋をまず先に運び、続いて、犬・猫のどちらかもしくは両方を同時に運ぶという場合、以下のようになる。

17.10) mi bevri le dakli .ije ba tu'e mi bevri le gerku
            .ijacabo mi bevri le mlatu tu'u
       私 運ぶ その 袋.  そして [未来] (私 運ぶ その 犬.
            [どちからもしくは両方] [現在] 私 運ぶ その 猫.)
       私は袋を運ぶ。その後、私は犬を運ぶか、私は猫を運ぶか、その両方を同時に運ぶ。


17.11) mi bevri le dakli gi'ebake bevri le gerku gi'acabo bevri le mlatu
       私 運ぶ その 袋 そして [未来] (運ぶ その 犬 [どちからもしくは両方] [現在] 運ぶ その 猫).
       私は袋を運びその後、犬を運ぶか、猫を運ぶか、その両方を同時に運ぶ。

17.12) mi bevri le dakli .ebake le gerku .acabo le mlatu
       私 運ぶ その 袋 そして [未来] (その 猫 [どちからもしくは両方] [現在] その 犬).
       私は袋、そしてその後、犬、猫、もしくは両方を同時に運ぶ。

18. 間制否定

セルマホ PU, FAhA, ZAhO の間制を持つブリディは間制シマヴォに “-nai” をつけて対義否定できる:

18.1)  mi punai klama le zarci
       私 [過去] [否定] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ行かなかった。
この場合、ブリディ全体が偽と言っているだけで、何が真なのか(訳注:例えば家には行ったのか、等)については何も言っていない。法制スムティに使う場合、その関係が成り立たないことを表す:
18.2)  mi klama le zarci canai le nu do klama le zdani
       私 ~へ行く その 市場 [現在] [否定] その 出来事 あなた ~へ行く その 家.
       あなたが家へ帰ると同時に私が市場へ行く、というのは真ではない。

18.3)  le nanmu batci le gerku ne'inai le kumfa
       その 男 噛む その 犬 [内側] [否定] その 部屋
       男は、部屋の中で犬をかまない。

18.4)  mi morsi ca'onai le nu mi jmive
       私 死亡 [進行相 - 否定] その 出来事 私 生きる.
       生きている間に死ぬというのは正しくない。

NAhE を間制句の前に付けることによって段階否定ができる。対義否定とは異なり、段階否定は、指定した以外の間制においてブリディが成り立つということを表明する。

18.5)  mi na'e pu klama le zarci
       私 [非-] [過去] ~へ行く その 市場.
       私は、過去ではないいつか市場へ行く。

18.6)  le nanmu batci le gerku to'e ne'i le kumfa
       その 男 噛む その 犬 [反-] [内側] その 部屋
       男は部屋の外で犬を噛む。


18.7)  mi klama le zarci na'e ca le nu do klama le zdani
       私 ~へ行く その 市場 [非-] [現在] その 出来事 あなた ~へ行く その 家.
       私はあなたが家に行く以外の時間に市場へ行く。

18.8)  mi morsi na'e ca'o le nu mi jmive
       私 死亡 [非-] [進行相] その 出来事 私 生きる
       私は生きている間でない時に死ぬ。

対義否定 “-nai” とは異なり、段階否定は PU と FAhA には限らない。

18.9)  le verba na'e ri'u cadzu le bisli
       その 子供 [非-] [右] ~を歩く その 氷
       子供は、右側以外のどこかで氷の上を歩く。

シマヴォ TAhE と ROI については、既に9節で説明した通り、段階否定になる。

19. 事実性、可能性、能力: CAhA

本節では、以下のシマヴォを取り扱う:

     ca'a    CAhA                実際にそうである
     ka'e    CAhA                生得的に能力がある
     nu'o    CAhA                素質があるがまだ発揮していない
     pu'i    CAhA                素質があり既に発揮している

間制の無いロジバンのブリディは、実際の出来事を表すとは限らない。例えば、

19.1)  ro datka cu flulimna
       全ての アヒル 浮いて泳ぐ
       全てのアヒルは浮いて泳ぐ
は、ロジバンでは真である(間制の無いブリディは、アヒルが今もしくは他の時間・場所で泳いでいることを必ずしも意図しない)。

19.2)  ro datka ca flulimna
       全ての アヒル [現在] 浮いて泳ぐ
       全てのアヒルは今、浮いて泳く
翻訳はそう見えないかもしれないが、この文の結果も真であり得る。全てのアヒルは今実際に泳いでいないかもしれないが、能力を有していることに変わりはない。「今実際に泳いでいる」と言うときには、
19.3)  ro datka ca ca'a flulimna
       全ての アヒル [現在] [実際に] 浮いて泳ぐ
       全てのアヒルは現在浮いて泳いでいる。
となり、これはロジバンでも翻訳でも偽である。CAhA シマヴォは、時間・空間の間制シマヴォの後ろ、 ki の前に置かれる。

さらに、アヒルは死んでいたり、孵化したばかりであったり、捕食されていたりするかもしれないが、全てのアヒルは生まれつき泳ぐ能力を有している。シマヴォ“ka'e”でこのことを表現できる:

19.4)  ro datka ka'e flulimna
       全ての アヒル [能力] 浮いて泳ぐ
       全てのアヒルは生まれつき浮いて泳ぐことができる

認識論によっては、個体の生得的な能力が、その個体の属する集合に対して拡張されることがある。例えば、

19.5)  la djan. ka'e viska
       ジョン [能力] 見る
       ジョンは生まれつき見ることができる
       ジョンは見ることができる
は、「見る」という能力は人間の生得的な能力であるため、「ジョン」が生まれつき目が見えなくても真となり得る。一方、
19.6)  le cukta ka'e viska
       その 本 [能力] 見る
       本は見ることができる
は、ほとんどの認識論において偽となるであろう。

孵化したばかりのアヒルは、泳ぐ能力を持つが、その能力をまだ発揮していないかもしれない。これは、シマヴォ “nu'o” で表すことができる:

19.7)  ro cifydatka nu'o flulimna
       全ての 子供-アヒル [素質があるがまだ発揮していない] 浮いて泳ぐ
       全ての子供のアヒルは浮いて泳ぐ素質があるが、まだ発揮していない
一方、フランクが生まれつき目が見えないのでなければ、“pu'i”が適切である:
19.8)  la frank. pu'i viska
       フランク [素質があり既に発揮している] 見る
       フランクは、見る素質があり、それを発揮している
“ca'a” “nu'o” “pu'i” の意味には “ca” が入っており、 “ca ca'a” “ca nu'o” “ca pu'i” も成り立つことに注意しよう。しかし、 CAhA シマヴォ は現在以外の間制についても使える:

19.9)  mi pu ca'a klama le zarci
       私 [過去] [実際に] ~へ行く その 店.
       私は実際に店に行った

19.10) la frank. ba nu'o klama le zdani
       フランク [未来] [能力] 行く その 店.
       フランクは(未来のある時点において)店に行くことができるがまだ行ったことはないであろう

ロジバン間制と同じように、CAhA を指定しない場合、意味は不定になり、文脈がそれを補う。例えば、

19.11) ta jelca
       あれは 燃える/燃えている/燃えるかもしれない/燃えるだろう
は、「あれは燃えている」「あれは可燃物だ」の両方の解釈が可能である。この曖昧性を解消するうには、

19.12) ta ca ca'a jelca
       あれ [現在] [実際に] 燃える
       あれは燃えている
and
19.13) ta ka'e jelca
       あれ [能力] 燃える
       あれは可燃物だ
もし何も指定がなければ、
19.14) jelca
       燃えている!
と同様、普通のロジバン話者は “火事だ!”と推測するであろう。

20. 間制間の論理・非論理接続

間制は、セルマホ JA を用いて論理接続(14章で説明)することができる:

20.1)  mi pu je ba klama le zarci
       私 [過去] と [未来] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ行ったし、また行く。
この文は、以下の文と同じ意味である:
20.2)  mi pu klama le zarci .ije mi ba klama le zarci
       私 [過去] ~へ行く その 市場. そしてd 私 [未来] ~へ行く その 市場.
       私は市場へ行った。そして、市場へ行く。

間制 connection and 間制 negation are combined in:

20.3)  mi punai je canai je ba klama le zarci
       私 [過去] [否定] そして [現在] [否定] そして [未来] ~へ行く その 市場.
       私はまだ市場へ行ったことないが、行くだろう。
この例は、過去・現在に行ったかどうか分からない以下の文:
20.4)  mi ba klama le zarci
       私 [未来] ~へ行く その 市場.
よりもずっと明示的である。(“ba”は “punai”や “canai”を示唆しないため、そう言いたい時は論理接続か ZAhO が必要である)

間制の否定を削除し、論理接続の否定を使える。以下の2文の意味は同じである:

20.5)  mi mo'izu'anai je mo'iri'u cadzu
       私 [動き] [左-否定] そして [動き] [右] 歩く
       私は左ではなく右に歩く

20.6)  mi mo'izu'a naje mo'iri'u cadzu
       私 [動き] [左] 否定-そして [動き] [右] 歩く
       私は左ではなく右に歩く

間制については、単純化のため、前置論理接続詞や、左結合を上書きする方法はない。

セルマホ JOI BIhI GAhO などの非論理接続も許可されている。例えば、セルマホ BIhI の “bi'o” を使って期間の終点を指定できる:

20.7)  mi puza bi'o bazu vasxu
       私 [過去] [中期間] から ... まで [未来] [長期間] 呼吸
       私は少し前からずっと後まで呼吸する

が、次節で説明されている:

21. サブ事象

非論理接続詞のもう一つの用法は、事象の中のサブ事象について話すことである。6発の銃弾を撃てる回転式拳銃を考えてみよう。もし6発の弾薬を2回転発射した場合、以下のように言える:

21.1)  mi reroi pi'u xaroi cecla le seldanti
       私 [2回] [直積] [6回] 撃つ その 銃
       2回に渡り、銃を6発撃った。
非論理接続詞“pi'u”は2つの集合のデカルト積(直積)を表す。この場合、2発の集合と6発の集合の直積であるため、合計12発となる。起きたことを非常に正確に言い表せる。

実際は、論理・非論理接続詞を使わずに、期間性質や事象線を単一の間制内に連続して表現できる:

21.2)  la djordj. ca'o co'a ciska
       ジョージ [進行相] [開始相] 書く
       ジョージは書き始め続ける。

21.3)  mi reroi ca'o xaroi darxi le damri
       私 [2回] [進行相] [6回] たたく その ドラム
       2回に渡り、私はドラムを6回叩き続けた

22. 法制スムティの転換: JAI

     jai     JAI                 間制の転換
     fai     FA                  不定の場所

転換は、場所構造の場所を変えることである。セルマホ SE のシマヴォを使うと、最初の場所とその他の場所を交換できる:

22.1)  mi cu klama le zarci
       私 ~へ行く その 市場.

22.2)  le zarci cu se klama mi
       その 市場 行かれる 私によって
“jai”と間制を一緒に使うことで、法制スムティによって示されている場所を前に持ってくることができる:
22.3)  le ratcu cu citka le cirla vi le panka
       その ネズミ 食べる その チーズ [短距離] その 公園
       ネズミは、公園ほど離れたところでチーズを食べる(※ vi の新解釈)

22.4)  le panka cu jai vi citka le cirla fai le ratcu
       その 公園 は ~の場所(離れ具合の)の基準 食べる その チーズ によって その ネズミ.
       公園(の大きさ)は、ネズミがチーズを食べる近さである。
上記の例では、JAI+間制が、場所の基準となるスムティを第1番目の場所に移動している。もともと第1番目の場所にあったスムティは行くところが無いが、“fai”を使ってブリティの不定の場所に挿入している。

他の FA のシマヴォを使うと、ブリディ場所を明確に指定できる:

22.5)  fa mi cu klama fe le zarci

は、
22.6)  fe le zarci cu klama fa mi
や、簡単な
22.7)  mi cu klama le zarci
と同じ意味である。

JAI+間制転換は、SE の転換と同様に、セルマホ LE と共に描写に使うと便利である。


22.8)  mi viska le jai vi citka be le cirla
       私 見た その 場所の基準 食べる その チーズ.
(ここではチーズを食べる主体は述べられていない)

時間間制も JAI と共に使うことができる:

22.9)  mi djuno fi le jai ca morsi be fai la djan.
       私 知っている について その [現在] 死んでいる ~と呼ばれるものの “ジョン”.
       私はジョンの死の時間を知っている。
       私はジョンがいつ死んだか知っている。

23. 間制と法制

文法的には、これまで見てきた間制の用法は、9章で説明した法制の用法と同じである。スムティを取ることができ、セルブリの前に置け、論理・非論理接続ができ、JAI による転換が可能である。

しかし、歴史的な経緯に深い根を持つ意味論の違いが両者にはある。ログランの初期バージョンでは、間制と法制は文法的にも全く異なるものであった。

その意味的な差は、法制ブリディ

23.1)  mi nelci do mu'i le nu do nelci mi
       私 好き あなた ~を動機として その 出来事 あなた 好き 私.
       あなたが私を好きなので、私はあなたが好き
が、“le nu” スムティを (法制“mu'i”の元になっている) ギスム “mukti” の x1 の場所、すなわち動機づけする出来事の場所に置くが、間制ブリディの
23.2)  mi nelci do ba le nu do nelci mi
       私 好き あなた ~の後 その 出来事 あなた 好き 私.
       あなたが私を好きな後、私はあなたが好き
では、“le nu” スムティは(間制 “ba”の元になっている) ギスム “balvi”の x2 の場所、すなわち未来間制の起点の場所に置かれる。上記2文を言い換えると、
23.3)  le nu do nelci mi cu mukti le nu mi nelci do
       その 出来事 あなた 好き 私 動機づける その 出来事 私 好き あなた.
       あなたが私を好きなことは、私があなたを好きなことの動機である。
23.4)  le nu mi nelci do cu balvi le nu do nelci mi
       その 出来事 私 好き あなた ~は後に起こる その 出来事 あなた 好き 私.
       私があなたを好きなことは、あなたが私を好きな後に起こる
(上記の言い換えは「表明されていること」が異なるため完全には同じではない)

結果として、上記2文の後置文接続形は、それぞれ

23.5)  mi nelci do .imu'ibo do nelci mi
       私はあなたが好きだ。それはなぜならあなたが私を好きだから。


23.6)  do nelci mi .ibabo mi nelci do
       あなたは私が好きだ。そして、私はあなたが好きだ。
例文 23.6 では、2つのブリディ“mi nelci do” and “do nelci mi”の順番がひっくりかえっている。23.5、23.6 どちらの場合でも、x2 の場所に入るブリティが x1 の場所に入るブリティよりも前に来ている。

一方、前置接続の場合、両者の非対称性は無くなる:

23.7)  mu'igi do nelci mi gi mi nelci do
       あなたが私を好きなので, 私はあなたが好きだ。
23.8)  bagi do nelci mi gi mi nelci do
       あなたが私を好きな後、私はあなたが好きだ。

法制の場合、以下のスキーマ(XとYは文)はすべて同じ意味を表す:

       X .i BAI bo Y
       BAI gi Y gi X
       X BAI le nu Y

一方、間制の場合は、以下はすべて同じ意味になる:
       X .i 間制 bo Y
       間制 gi X gi Y
       Y 間制 le nu X
法制の場合、法制タグの後にはいつも Y すなわち BAI の元になるギスムの x1 に入る出来事を表す文が来る。間制の場合はそのような単純なルールは存在しない。

24. 間制疑問: “cu'e”

本節では、以下のシマヴォを取り上げる:

     cu'e    CUhE                間制 question

英語などの自然言語では、間制を尋ねる方法には「いつ?」「どこ?」の2つがあるが、これはそれぞれ「どの時間に?」「どの場所で?」ということである。これをロジバンで言うには、間制と“ma”を用いて、スムティ疑問文を作ればよい:

24.1)  do klama le zdani ca ma
       あなた ~へ行く その 家 [現在] [何のスムティ?].
       いつあなたはその家に行きますか?

24.2)  le verba vi ma pu cadzu le bisli
       その 子供 [短距離] [何のスムティ?] [過去] ~を歩く その 氷.
       子供は、どのぐらい近くで氷の上を歩いた?
他にも、不定の間制・法制疑問の「cu'e」(セルマホ CUhE)がある。間制・法制句が使えるところならばどこにでも使える。
24.3)  le nanmu cu'e batci le gerku
       その 男 [何の間制?] 噛む その 犬.
       いつ/どこで/どうやって男は犬を噛む(噛んだ)?
この文に対する答えとしては、以下のようなものがあり得る:
24.4)  va
       [中距離]
       ここからある程度離れたところで

24.5)  puzu
       [過去] [長時間].
       ずっと前に

24.6)  vi le lunra
       [短距離] その 月
       月の大きさほどしか離れていないところで

24.7)  pu'o
       [起動相]
       まだやっていない
もしくは、法制で答えることもできる (セルマホ BAI については、9章を参照のこと):
24.8)  seka'a le briju
       オフィスを目的地として

“cu'e” と他の間制シマヴォをつなぐ唯一の方法は、論理接続を使うことであり、既に情報をある程度明示することができる:

24.9)  do puzi je cu'e sombo le gurni
       あなた [過去] [短時間] と [いつ?] 穀物を蒔いた?
       あなたは、つい先ほど穀物を蒔いた。他にはいつ蒔く(蒔いた)のか?
さらに、論理接続そのものを疑問詞で置き換えることもできる:
24.10) la .artr. pu je'i ba nolraitru
       アーサーは [過去] [どちら] [未来] 王である
       アーサーは王だったのか、それともこれから王になるのか?
これに対する答えは、「両方」を意味する“je”、「後者」を意味する“naje”、「前者」を意味する “jenai”などが使える。

25. 程度の明示

VA や ZI などの程度を指定する語の問題点は、小・中・大の曖昧な程度しか指定できないということである。「名辞組(termset)」(14章、16章で詳しく説明)を間制・法制タグの後に使うと、起点と正確な距離を指定できる:

25.1)  la frank. sanli zu'a nu'i la djordj.
             la'u lo mitre be li mu [nu'u]
         フランク 立つ [左] [名辞組開始] ジョージ
             [量] a メートルで測られる量 数 5 [名辞組終了].
       フランクはジョージの5メートル左に立っている。
ここで、名辞組は“nu'i”から“nu'u”(省略可)まで続き、タグ無しの起点名辞“la djordj.”、タグ“la'u”(セルマホ BAI、~の量の)の有る“lo mitre be li mu”を含んでおり、この両者が zu'a に支配されている。

名辞組が起点と程度の両方を含んでいる必要はない。上記の例文のもっと正確ではない版は以下のようになる:

25.2)  la frank. sanli zu'a nu'i la'u
             lo mitre be li mu
       フランク 立つ [左] [名辞組] [量]
             a メートルで測られる量 数 5
       フランクは5メートル左に立っている。

26. 最後に (まだ物足りない読者のための練習)

26.1)  .a'o do pu seju ba roroi ca'o fe'e su'oroi jimpe
            fi le lojbo temci selsku ciste
            [希望] あなた [過去] [に関わらず] [未来] いつも [進行相] [空間:] 少なくとも1 [回] 理解する
            [x3; ~を] その ロジバンの 時間 発話 システム
            過去どうだっかに関わらず、これからは、どこかで、ロジバンの間制句システムについて理解し続けられると良いですね。

27. 間制セルマホのまとめ

      PU    temporal direction
            pu = past, ca = present, ba = future

      ZI    temporal distance
            zi = short, za = medium, zu = long

      ZEhA  temporal interval
            ze'i = short, ze'a = medium, ze'u = long, ze'e = infinite

      ROI   objective quantified 間制 flag
            noroi = never, paroi = once, ..., roroi = always, etc.
            pare'u = the first time, rere'u = the second time, etc.

      TAhE  subjective quantified 間制
            di'i = regularly, na'o = typically, ru'i = continuously, ta'e = habitually

      ZAhO  event contours
            see Section 10

      FAhA  spatial direction
            see Section 28

      VA    spatial distance
            vi = short, va = medium, vu = long

      VEhA  spatial interval
            ve'i = short, ve'a = medium, ve'u = long, ve'e = infinite

      VIhA  spatial dimensionality
            vi'i = line, vi'a = plane, vi'u = space, vi'e = space-time

      FEhE  spatial interval modifier flag
            fe'enoroi = nowhere, fe'eroroi = everywhere, fe'eba'o = beyond, etc.

      MOhI  spatial movement flag
            mo'i = motion; see Section 28

      KI    set or reset sticky 間制
            間制+“ki” = set, “ki” alone = reset

      CUhE  間制 question, reference point
            cu'e = asks for a 間制 or aspect, nau = use speaker’s reference point

      JAI   間制 conversion
            jaica = the time of, jaivi = the place of, etc.

28. List of spatial directions and direction-like relations

The following list of FAhA シマヴォ gives rough English glosses for the シマヴォ, first when used without “mo'i” to express a direction, and then when used with “mo'i” to express movement in the direction. When possible, the ギスム from which the シマヴォ is derived is also listed.

シマヴォ   ギスム   without mo'i        with mo'i
-----   -----   ------------        ---------
ca'u    crane   in front (of)       forward
ti'a    trixe   behind              backward
zu'a    zunle   on the left (of)    leftward
ri'u    pritu   on the right (of)   rightward
ga'u    gapru   above               upward(ly)
ni'a    cnita   below               downward(ly)
ne'i    nenri   within              into
ru'u    sruri   surrounding         orbiting
pa'o    pagre   transfixing         passing through
ne'a            next to             moving while next to
te'e            bordering           moving along the border (of)
re'o            adjacent (to)       along
fa'a    farna   towards             arriving at
to'o            away from           departing from
zo'i            inward (from)       approaching
ze'o            outward (from)      receding from
zo'a            tangential (to)     passing (by)
bu'u            coincident (with)   moving to coincide with
be'a    berti   north (of)          northward(ly)
ne'u    snanu   south (of)          southward(ly)
du'a    stuna   east (of)           eastward(ly)
vu'a            west (of)           westward(ly)
Special note on “fa'a”, “to'o”, “zo'i”, and “ze'o”:

“zo'i” and “ze'o” refer to direction towards or away from the speaker’s location, or whatever the origin is.

“fa'a” and “to'o” refer to direction towards or away from some other point.