[Cartoon]

第17章: 「いろは」なんて簡単!? ロジバンの字詞の仕組みと使い方

1. そもそも字詞って何なのさ?

「字詞」(letteral)は、ログラン・プロジェクトを設立したジェームズ・クック・ブラウンが「数詞」(numeral)にならって作った言葉で、英語で言えば f や z のようなアルファベットの一文字一文字を言う。日本語なら以下の例がわかりやすいだろう:

1.1)  この文には「い」という字詞が3つ含まれている。

(かぎ括弧の中の「い」も数えるのを忘れないように!) 単に「字」と言ってもよいのだが、これは複数の意味に取ることができる。かわりに「字詞」という専用の単語を使えば混乱を避けることができる。当然ながらロジバンには「字詞」の意味を持つ専用のギスムがあり、「レルフ」という。この章ではこれ以降、「レルフ」を使うことにする。

ロジバンは英語と同じで、ラテン文字を使うのでしょう? わざわざ章を割くほどのことはないんじゃない? アルファベットなんてほとんどの人が知ってるでしょうに。とお思いだろうか。答えは2つある:

まず、英語には英語のレルフを表す名前があるものの、書き下されることもほとんどなく、決まった綴り方もない。日常生活に登場するのは、英語のアルファベットを口に出して言うとき (エー、ビー、シー、ディー…) や、単語の綴り方を説明する時、略語を発音する時などである。それに対してロジバンではこれらの名前がきっちりと定められており、この本のどこかで説明しておかなければいけない、というのがこの章の存在意義の1つ目だ。

2つ目に、例えば英語では英語を構成するレルフについてだけ何らかの名前がある。(より正確には、ギリシアとヘブライレルフについても英語の名前があるが、全ての英語話者が知っているわけではなく、それぞれの言語で使われる名前とまったく同じでもない。例えばphiと書き下されるギリシア語の文字があるが、英語話者ならこれを「ファイ」と発音し、ギリシア語話者なら「フィー」に近い発音をする。) ロジバンは文化的に中立な言語をめざす以上、あらゆる言語の文字体系を扱える、あるいは少なくとも扱う能力のある総合的な仕組みを備えている必要がある。

ロジバンでは字詞を活用した表現が何種類かある。頭字語や略語、数式中の記号、代スムティ (日本語でいう代名詞にあたるもの) である。

ロジバンの初期の頃の文書では、字詞そのものと、字詞それぞれを表すロジバンの単語の両方について「レルフ」という用語を区別なく使う傾向があった。この章では、その曖昧さを完全に断ち切り、後者の意味を表したい時はいつも「レルフ詞」を使うことにする。ロジバンではlerfu valsiまたはlervlaになる。

2. AからZまでロジバンで、それからオマケを1つ

どんな言語であれ、レルフ詞の体系としての必須条件は、その言語を書き綴るのに使われるレルフ1つ1つを表せることだ。英語のレルフ詞は雑然としたものである。「ダブリュー」と「w」が対応関係にあるのはまったく歴史的な経緯によるものであり、「エイチ」が「h」を表す理由はとくに見当たらない。「z」に至っては、2つのレルフ詞があり、英語の方言によって「ズィー」か「ゼッド」になる。

訳注: 本書はもともと英語で書かれており、また英語とロジバンはアルファベットがほぼ共通しているため、今後も英語と対比しての説明が何箇所か出てくる。

ロジバンの基本的なレルフ詞は、次の3つの規則のどれかから作られている:

母音のレルフ詞: 後ろにbuを付ける
子音のレルフ詞: 後ろにyを付ける
「'」のレルフ詞は「.y'y」

つまりロジバンのアルファベットを一覧にすると以下のようになる:

   '   a   b   c   d   e
    .y'y.   .abu    by. cy. dy. .ebu

    f   g   i   j   k   l
    fy. gy. .ibu    jy. ky. ly.

    m   n   o   p   r   s
    my. ny. .obu    py. ry. sy.

    t   u   v   x   y   z
    ty. .ubu    vy. xy. .ybu    zy.

ここで注意してほしい点をいくつか挙げよう。子音のレルフ詞は単音節だが、母音と「’」のレルフ詞は2音節になっており、前に休止をおかなければいけない (母音で始まる語であるため)。もう1つ、この表から明らかではないかもしれないが重要なポイントがある: 「by」やそれに類するレルフ詞(これには「.y’y」も入る)はセルマホBYに属するシマヴォであること、さらに母音のレルフ詞は複合シマヴォであり、1つの母音からなるシマヴォと「bu」シマヴォ (これは別のセルマホBUに属する)を合わせたものであるということである。母音からなるシマヴォはそれぞれ論理接続詞や文の区切り、ためらいを示す音などの役割があるが、「bu」が後に続く時にはそうした役割を果たさなくなる。

ロジバンの簡単な単語を幾つか、上のアルファベットを使ってつづってみよう:

2.1)  ty. .abu ny. ry. .ubu
    "t" "a" "n" "r" "u"
2.2)   ky. .obu .y'y. .abu
    "k" "o" "'" "a"

ロジバンの単語のつづり方を書き出したり読み上げたりすることが役に立つ場面は、英語の場合よりは少ない。理由は2つある。まず、ロジバンのつづり方は、発音の仕方と一対一対応しているから、単語のつづり方が問題になることはまず無い。それからロジバンのレルフ詞は規則的に作られているため、発音が互いに似ている。英語におけるように、つづりを伝えることで意図した単語がより伝わりやすくなることが少ないのである。例えば英語の単語、failとvaleの音は似ているが、1つめのレルフ詞、つまりそれぞれ「エフ」と「ヴィ」を聞けば簡単に区別することができる。もしそこで聞き違えても、vailもfaleも一般的な英語の単語ではないから、残りのスペルを聞くことでどの単語のことかを判断することができる。それでも、単語のつづりを1つ1つ表現する手段がロジバンにはあるのだということをここでは述べておく。

もう1つ、「y」で終わるレルフ詞の後に休止がおかれていたことに注意してほしい (例2.1例2.2)。休止がいつも必要というわけではないが、休止をおかないと曖昧な表現になることがある:

2.3)  mi cy. claxu
    私 レルフ「c」 -が無い
    私には文字「c」(が指し示しているものが何であれ)が無い。

もしこの文に「cy」の後の休止が無かったら:

2.4)  micyclaxu
    観察文: 医者無し
    明示していない何かには医者がない。

こうした曖昧さを避けるためには、「y」で終わるシマヴォの後には、次に来る単語も「y」で終わるシマヴォでない限り、必ず休止を置くことにすれば間違いない。次の語に関わらず休止を置くようにすれば、より簡単である。

3. 大文字と小文字

ロジバンでは英語とは違った大文字と小文字の使い分けをする。ロジバンでは文も名前も大文字ではなく小文字で始める。大文字がロジバンで登場するのは、不規則なアクセントを持つ名前の中である。例えば:

3.1)  .iVAN.
    「イワン」のロシア語/スラヴ語読み。

大文字と小文字のレルフ1つ1つにシマヴォを割り当てていては数が多くなりすぎる。そこで、特別なシマヴォ2つが用意されている。「ga’e」は大文字を、「to’a」は小文字を表すシマヴォで、他の基本的レルフ詞と同じセルマホBYに属し、好きなように混ぜて使うことができる。

「ga’e」が登場すると、その後のレルフ詞は全て大文字のレルフを表すようになる。「to’a」が登場すると、小文字に戻る。つまり、「ga’e .abu」は「a」ではなく「A」を意味する。イワンの名前をつづってみると:

3.2)  .ibu ga'e vy. .abu ny. to'a
    i [大文字] V A N [小文字]

こうした働きをするシマヴォや複合シマヴォのことは今後変意詞と呼ぼう。

変意詞の効果はどこまで続くのか?理屈のうえでは、効果を打ち消すような変意詞が登場するか、それともその文章の終わりまでということになる。実際には、レルフ詞以外の単語が登場するまでの間を影響範囲と見なすことが多い。

1つの文字だけを変意詞で囲いたいこともよくある。そういう時はセルマホLAUに属するシマヴォ「tau」が便利だ。LAUシマヴォの後には必ずBYシマヴォもしくはそれに相当する語が来る。このペアは文法上は1つのBYと同等のものとして扱われる。(詳しくは第14章を参照。)

「tau」を使う場面として考えられるのは、化学の元素記号である。現在国際的に用いられている表記では、各元素は1つの大文字のレルフか、大文字のレルフと小文字のレルフで表される:

3.3)  tau sy.
    [一文字変意] S
    S (硫黄の元素記号)
3.4)  tau sy. .ibu
    [一文字変意] S i
    Si (ケイ素の元素記号)

大文字変意中に「tau」が出てきた時は、通常とは逆で、続くレルフ詞が小文字になる。

4. 万能の「bu」

これまでのところ、「bu」が登場したのは母音のレルフ詞を作るのに後に付ける時だけだった。元々想定されていた「bu」の用途はこれだけである。しかし、レルフ詞の仕組みを構築するにあたって、レルフ詞の基本セットを拡張するための汎用的な方法として、「bu」をどんな単語にもくっつけてよいことにすると大変便利だということが分かってきた。

正式に決まった規則は、どんなロジバンの単語にも「bu」をくっつけてよいが、複合シマヴォと一部の特殊なシマヴォは除く、というものである。特殊なシマヴォは以下の通り: ba’e、za’e、zei、zo、zoi、la’o、lo’u、si、sa、su、fa’o。これらは、元々の性質として「bu」より早く解釈されるので、「bu」をつけてレルフ詞とすることができない。特に、

4.1)  zo bu
    「bu」という単語

という表現は「bu」についてロジバンでとりあげる時に必要不可欠なものとなる。また、「bu」を「bu」自体に付けることはできないが、「bu」を2つ以上単語に付けることは許されている。つまり「.abubu」は見た目は悪いが文法上は正しい。(これがどういう意味になるかはまだ決まっていないが、「.abu」とは違う意味合いだろうと思われる。) これらの条件を満たした上で、「bu」を付けた単語は、シマヴォであれシメネであれブリヴラであれ、文法上はセルマホBYに属するシマヴォとして扱われる。注意点として、シメネの場合は前後に休止を置く必要がある。そうしないと、前後の単語との区切りが無くなってしまうからである。

「bu」を色々な単語に付けられるようにしたことで、さまざまな記号や特殊な文字を名付けやすくなった。例えば「ニコニコマーク」はロジバンでは「.uibu」になる。「うれしさ」を意味する心態詞「.ui」を元にしたものである。インターネットやメールなどで使われる顔文字で「笑い」を表すものがあるが (英語では :-)、日本語では (^_^) など)、こちらは「zo’obu」である。こうした名前があるからといって、うれしい時や面白い時に「.uibu」などをロジバン文のなかに差し挟まないように注意したい。そういう時は心態詞をそのまま、正しく使おう。

同じように、「joibu」はアンパサンド「&」の名前である。元になっているシマヴォ「joi」の意味は「群化の「と」」だ。今後こうしたレルフ詞がもっと沢山作られていくだろう。

ロジバンの文章で休止と音節区切りを表すのに使われる「.」と「,」は、それぞれ「denpa bu」(文字通り「休止 bu」)と「slaka bu」(文字通り「音節 bu」)というレルフ詞が割り当てられている。buの前の空白は必要である。「denpa」も「slaka」も規則通りのアクセントを持つ普通のギスムであるため、「denpabu」と書くと「denPAbu」というアクセントを持つフヒヴラ (別の言語からロジバンに借用してきた語) になってしまう。ただし、「denpa」「slaka」と「bu」の間に休止を置く必要はない。

5. 外字

第1節でも触れたように、ロジバンの目標の1つ、文化的中立性を実現するためには、できるだけ多くの文字体系のレルフを表せるレルフ詞の仕組みを備えている必要がある。ロジバンに無いレルフを目にした時に (限定するわけではないが、数式は好例である)、迷いなくロジバンとして発音できなくてはいけない。

世界で使われている文字体系はまず間違いなく数百を下らないだろうし、1つの仕組みであらゆる文字体系を表現できるように、というのは無理難題かもしれない。だが完璧さを犠牲にすれば、ロジバンに今ある素材だけで実用に耐えうる仕組みを作ることは可能である。

1つの可能性としては、元の言語で使われているレルフ詞を活用する方法がある。つづりをロジバン化し、「bu」を付けるのである。実際の話、ロジバンの文章中にギリシア文字の「アルファ」が単独で出てくるようなケースでは、「.alfas. bu」とするのが一番簡単だろう。ギリシア語のレルフ詞に「s」を付けることでロジバンとして通る名前に変換し、「bu」を付けてロジバンのレルフ詞としたのである。「.alfas.」の後の休止は省略できないことに注意しよう。

同様に、ロジバンで使われることのないラテン文字「h」「q」「w」は、それぞれが表す子音のレルフ詞に「bu」を付けるのが簡単である。具体的には次の対応付けに決められている:

       .y'y.bu     h
        ky.bu       q
        vy.bu       w

例えば、英語の「quack」という語をロジバンでつづってみると:

5.1)  ky.bu .ubu .abu cy. ky.
    "q" "u" "a" "c" "k"

この語で使われている文字「c」とロジバンの文字「c」の発音はまったく無関係であることに注意してほしい。ここでつづっている語は英語の単語であり、どの文字を使うかは英語が決めることだ。だが、その一文字一文字をつづる時はロジバンとしてつづるのであり、どう発音するかはロジバンが決めることなのだ。

英語以外の言語で使われるラテン文字についても幾つか案が上がっている:

       ty.bu       þ (ソーン: アイスランド語で使われる。古英語でも使われた。)
        dy.bu       &edh; (エズ: アイスランド語、フェロー語で使われる。古英語でも使われた。)

しかしながら、この仕組みは万能ではない。1つには、場合によっては冗長になってしまう。対象の言語での正式なレルフ詞はとても長いことが多く、「bu」を付けることでさらに長くなる。ギリシア語のレルフ詞では、最長で「.Omikron. bu」、4音節プラス2箇所に省略不可の休止がある。それに、複数の言語で共通して使われる文字体系には、それぞれの言語で違うレルフ詞がある。ロジバンとして、他を差し置いてどれか1つを選ぶことなんてできはしない。

そこで代替案となるのが、第3節で登場したような変意詞を使うというものである。その変意詞の後は、ロジバンアルファベットのレルフ詞が別の意味を取るようになる。つまり、対象となる言語のアルファベットのレルフを表すようになるのだ。例えばギリシア語のアルファベットへの変意詞の後は、レルフ詞「ty」はラテン文字の「t」ではなくギリシア文字の「タウ」を表すようになる。なぜ「タウ」でなくてはいけないのか?ギリシア語のレルフ体系の中でも、一番「t」に近いのが「タウ」だからだ。理論的には「ty.」を「ファイ」に、あるいは「オメガ」にだって対応付けても問題ない。だが、そんな恣意的な対応関係は覚えるのがきわめて難しいだろう。

あきらかな対応関係にあるレルフ詞が無い場合は、何らかの恣意的選択をせざるを得ない。変意詞の仕組みでは対応しきれないレルフの場合は、「bu」を付ける方式に頼ることになる。「bu」を付ける形でも、どの言語のレルフを指しているかをはっきりさせるために、変意詞を併用するほうがよい。

セルマホBYのシマヴォが変意詞になっている。以下は現在割り当てられている変意詞と文字体系の一覧である:

    lo'a    ラテン文字/ローマ字/ロジバンアルファベット
    ge'o    ギリシア文字
    je'o    ヘブライ文字
    jo'o    アラビア文字
    ru'o    キリル文字

セルマホLAUに属するシマヴォ「zai」を使って、他の文字体系を対象にした変意詞を作ることができる。LAUシマヴォの後には必ずBYに属する語をおかなければいけないが、ここでは普通、対象とする文字体系の名前に「bu」を付けたものである:

5.2)  zai .devanagar. bu
    デーヴァナーガリー (ヒンディー) 文字
5.3)  zai .katakan. bu
    日本語のカタカナの50音図
5.4)  zai .xiragan. bu
    日本語のひらがなの50音図

上で出てきたシマヴォとは違って、これらの変意詞は正式なものではなく、誰かが声を上げるまでは非公式なままと考えられる。(前後に休止を示す「.」があることに注意。)

さらに、1つの文字体系内であっても、同じ文字を違う表現で書き表す場合がある。ローマン体と斜体、手書き文字と印字、明朝体と行書体など。これらの一般的な「活字・書体」の区別も変意詞でおこなわれる。セルマホLAUに属するシマヴォ「ce’a」とそれに続くBYによって:

5.5)  ce'a .xelveticas. bu
    ヘルベチカ体
5.6)  ce'a .xancisk. bu
    手書き
5.7)  ce'a .pavrel. bu
    フォントサイズ12ポイント

シマヴォ「na’a」(セルマホはBY)は、どんな変意詞の効果も打ち消すことができる。つまり、「na’a」の後はすべてのレルフ詞がロジバンの小文字、かつ書体は不特定、という解釈に戻る。「lo’a」はもっと限定的で、文字体系だけが対象なので、書体や大文字小文字の変意詞の効果は「lo’a」の後も持続する。

本章の終わりに、いくつかの言語について現在提案されているレルフ詞がそれぞれ表にまとめられている。

6. アクセント記号と複合レルフ詞

ラテン文字を使う言語では、一部のレルフに特殊な記号を付けることがよくある。例えばフランス語では、鋭アクセント・低アクセント・曲折アクセントの3種類のアクセント記号を母音文字の上に付けて使う。同様に、ドイツ語ではウムラウトという記号を使う。フランス語でもこれと同じ形をした記号を使うが、名前も意味も違っている。

こうした記号もレルフの一種として、それぞれロジバンのレルフ詞が与えられている。ここまでは簡単だ。問題は、アクセント記号を書くときはレルフの上に付けて書かれるのに対し、読み上げるとき (や書き下すとき) は、付ける対象のレルフを表すレルフ詞の前後どちらかに置かなければいけないという点である。(機械上の問題から) タイプライターやそれを模したコンピュータ・プログラムでは、対象のレルフの前にあらかじめアクセント記号を打ち込むようになっている。逆に、読み上げる時はアクセント記号は後に来ることが多い (例えばドイツ語では「ウムラウト a」より「a ウムラウト」の方が一般的である)。

前に置くか後に置くか、ロジバンの独断でどちらかに決めることはできない。対象の言語での一般的な解釈にまかせるか、もしくは複合レルフ詞を作るシマヴォ「tei」(セルマホTEI)と「foi」(セルマホTEI)を使うことになる。この2つのシマヴォはいつも組で使い、間に好きなだけレルフ詞をはさんでよい。すると全体が1つの複合レルフ詞として扱われるようになる。例えばフランス語の単語、「ete」で両方の「e」レルフに鋭アクセント記号が付いたものは、以下のようにつづることができる:

6.1)  tei .ebu .akut. bu foi ty. tei .akut. bu .ebu foi
    ( "e" 鋭アクセント記号付き ) "t" ( 鋭アクセント記号付き "e" )

この方法では、「akut. bu」が「.ebu」の前に来ようが後に来ようが、意味は同じになる。「tei … foi」で囲うことで、鋭アクセント記号がどのレルフに付けられているのかが正確に決まるからである。もちろん、例6.1のような精確さでものを言わなければいけない場合はめったにない。あるとすれば、フランス語を知らないロジバン話者に、フランス語の単語のつづりを間違いなくロジバンで伝えたい時などだろう。

1つのレルフに対して複数のアクセント記号を使うような言語では、この仕組みは用を無さなくなる。どのアクセント記号をどの位置に付ければいいのかを指定するための、新しい規則が必要になる。簡単なものとしては、対象のレルフに近い順に、アクセント記号のレルフ詞を並べるというものだ。それでも曖昧さが残るのであれば、さらに何らかの規則を導入することになるだろう。

スウェーデン語やフィンランド語のような言語では、アクセント記号付きのレルフが、記号なしのものとは別に、1つの独立したレルフとして数えられる。しかし、紙面上ではそうした解釈の違いは表現されないので、ロジバンでもとくに区別する方法は考えられていない。また、言語の中には、特定の2文字の組み合わせを1つの文字と見なすものがある (スペイン語なら「ll」や「ch」)。これはその2文字を「tei … foi」で囲うことで表現できる。

なお、他の言語が話題になっていて、適切なレルフ詞がない時には、その場で新しく名付けてよいことになっている。ただし、文脈上意味が明確であるか、それともどういう意味かをその場で説明する必要がある。スペイン語の「ll」やクロアチア語の「lj」を「libu」と即席で呼んでもよいが、ロジバン話者なら誰でも通じるわけではないということだ。

19節に、一般的なアクセント記号について現在提案されているレルフ詞の一覧がある。

7. 句読点記号

ロジバンにはいわゆる句読点はない。denpa buもslaka buもアルファベットの一部として定義されている。が、他の言語では句読点がふんだんに使われる。今のところ、ロジバンではこうした句読点に正式な名前は与えられていないが、必要になった時のための最低限の規則が決められている。それがセルマホLAUに属するシマヴォ「lau」である。「lau」の後には必ずBY類の単語が続き、レルフではなく句読点として解釈される。この「BY類の単語」は大抵は「bu」の付いた固有名詞かブリヴラである。

そもそも何故「lau」が要るのだろう?ただ単に、この「bu」付きの単語は句読点のレルフ詞である、と宣言してしまえばいいのでは?答は主にあいまいさを避けるためである。「bu」を付けてレルフ詞を作る仕組みは制約が少なく、何の説明も無しに自由に新しい「bu」語を作ってしまうことが可能である。「lau」シマヴォを使うことで、少なくともそうしたその場限りのアドリブで作られた語のどれが「句読点」であるか、という重要な区別を付けることができる。(同じ考え方で選定されたのが「zai」(文字体系の変意詞)と「ce’a」(書体の変意詞)である。)

文字体系によって句読点記号も違うため、「lau」の付いたレルフ詞の解釈はその時の文字体系の変意詞と書体の変意詞によって左右される。

8. 漢字は?

文字による表現方法としてみた時、漢字 (中国語で「han4zi4」) は、アルファベットのような表音文字とも日本語のひらがなのような音節文字とも一線を画している。(音節文字は、ひらがなの他、アムハラ語でも使われるもので、発音した時の音節ごとに1つのレルフが割り当てられるものである。) おおざっぱに言って、漢字はそれぞれ1つの意味要素を表している。また、これまたおおざっぱに言えば、漢字はそれぞれ中国語の1音節を表している。許される漢字の数には上限がなく、実際数千という文字が日常的に使われている。

ロジバンの数少ないレルフと変意詞をもってして、この多様な文字に対応する文字体系を作り出すのは絶望的な試みである。だが、回り道をすれば方法が無いこともない。それも複数。

まず、中国語も日本語も、ラテン文字による書き下し方法が標準化されている。中国語ではピンイン、日本語ではローマ字である。これは使える。「han4zi4」は普通は漢字2文字の単語だが、以下のように書き下すことができる:

8.1)  .y'y.bu .abu ny. vo zy. .ibu vo
    "h" "a" "n" 4 "z" "i" 4

シマヴォ「vo」はロジバンの数字「4」だ。文法上、レルフ詞の並びに数字 (セルマホPA) を自由に差し挟んでよいことになっており、先頭のシマヴォがレルフ詞でありさえすれば、全体が一連のレルフ詞として解釈される。中国語なら、この数字を使って声調を示すことができる。通常ピンインでは声調を示すのにアクセント記号が使われる。こちらは6節で解説ずみである。

日本の「三菱」という会社はローマ字で以下のように書き下される:

8.2)  my. .ibu ty. sy. .ubu by. .ibu sy. .y'y.bu .ibu
    "m" "i" "t" "s" "u" "b" "i" "s" "h" "i"

別の方法として、意欲あふれるロジバン話者向きのものがある。まず漢字の1つ1つの字画にレルフ詞をあてる (その数は、あなたが人間であれば、融通がきくので7から8個、融通のきかないコンピュータ・プログラムであれば40個ほど)。漢字1文字を表すには、「tei」を先頭に筆順に従って字画のレルフ詞を並べ (筆順は標準化されている)、最後に「foi」で閉じる。この方法を実際にやってみた人はまだいない。

9. 代スムティとしてのレルフ詞

これまでに登場したレルフ詞の用途はロジバン文章内で単語をつづることだけだった。この他にもレルフ詞を使った表現が幾つかあるので紹介しよう。どの表現でもレルフ詞単体か、複数を連ねたものが使われる。この「1つ以上のレルフ詞の連なり」を端的に言い表すため、レルフ列という用語を使うことにする。

レルフ列の用法として、第一にまず代スムティがある。代スムティはそれまでに出てきた別のスムティを指すスムティで、他には「ko’a」や「ko’e」などがある。

9.1)  .abu prami by.
    AはBを愛する。

例9.1では、「.abu」と「by.」が具体的にどのスムティを指しているかは文脈から推測しなければならない。

あるいは、代スムティの参照先を指定するためのシマヴォ、「goi」を使って明示することもできる。

9.2)  le gerku goi gy. cu xekri .i gy. klama le zdani
    その犬Gは黒い。Gはハウスに行く。

とある特殊ルールのおかげで、通常の代スムティ用シマヴォよりレルフ列の方が便利なことがある。レルフ列(とくに1文字のもの)の指示先の指定がない場合には、綴りがそのレルフで始まる固有名や描写スムティのうち、一番最後に登場したものが自動的にあてられる、というものである。つまり例9.2は以下のようにしても問題ない:

9.3)  le gerku cu xekri. .i gy. klama le zdani
    その犬は黒い。Gはハウスに行く。

(逐語訳でなくてよければ、Gではなく「イ」になるだろう。)

こちらの例では、固有名を2つと、長めのレルフ列を使っている。

9.4)  la stivn. mark. djonz. merko
        .i la .aleksandr. paliitc. kuzNIETsyf. rusko
        .i symyjy. tavla .abupyky. bau la lojban.
    スティーブン・マーク・ジョーンズはアメリカ人だ。
    アレクサンダー・パヴロヴィッチ・クズネツォフはロシア人だ。
    SMJはAPKにロジバンで話す。

アレクサンダーの名前は「ru’o.abupyky」の方が良いかもしれない。

この例はどういう意味だろう。

9.5)  .abu dunda by. cy.

AがBをCにあげる、ということだろうか?いや、そうではない。「by. cy.」は2つの単語のように見えるが、実際は1つのレルフ列として解釈され、全体で1つの代スムティとなる。つまり正確にはAがBCを誰かにあげるという意味になってしまう。この問題を解決するには、省略可能な終端詞「boi」(セルマホBOI)に登場願う必要がある。boiはレルフ列や数詞列の終端を示すのに使われ、今回のように連続している場合には間に挟む必要がある。(boiを使って添え字や括弧など自由修飾語/自由修飾句をレルフ列に付けることもできる。)それでは修正してみよう:

9.6)  .abu [boi] dunda by. boi cy. [boi]
    AはBをCにあげる。

括弧内のboiは省略可能だが、それ以外は省略してはいけない。同様に、

9.7)  xy. boi ro [boi] prenu cu prami
    Xはすべての人を愛する。

レルフ列「xy.」と数詞列「ro」の境界を示すのに最初のboiが必要である。

10. レルフへの言及

第9節の規則のため、レルフそのものを名指ししたい時にレルフ詞をそのまま言っても意図した意味にはならなくなってしまった。つまり、以下の文を聞いた相手は

10.1)    .abu. cu lerfu
    Aは字詞である。

「.abu」が指しているスムティを文脈から探そうとする。この問題を解決するにはセルマホLIに属するシマヴォ「me’o」を使う。me’oのあとに続くレルフ列は、その一連のレルフそのものを表すスムティに変換されるのである。「me’o」は元々数式の記述で使われるもので、数式の値ではなく式そのものを示したい時に使う。この機能をうまく応用したのがここで紹介している用法である。

10.2)    me'o .abu cu lerfu
    「a」という句は字詞である。

必要な道具が揃ったので、例1.1をロジバンに訳してみよう。

10.4)    dei vasru vo lerfu
        po'u me'o .ebu
    この文には「e」が4つ含まれる。

「lu … li’u」で引用句とすればよいのでは、と思ってしまうかもしれない。つまり、

10.4.5)    lu .abu li'u cu lerfu
    [引用始め] .abu [引用終わり] は字詞である。

(単一の語を引用する「zo」はここでは使えない。「.abu」が複合シマヴォだからである。)だが例10.4は正しくない。例10.4が何を言っているかというと:

10.5)    「.abu」という語は字詞である。

そうではなく、「.abu」という語が表している対象が字詞なのだから、ロジバンでは以下のようにしなくてはいけない:

10.6)    la'e lu .abu li'u cu lerfu
    以下の指しているもの: [引用始め] .abu [引用終わり] は字詞である。

こちらは正しい。

11. レルフ列の数式での利用

ロジバンにおける数式表現については第18章に詳しい説明があるので、ここではレルフ列の数式での利用例を列挙するにとどめ、具体的な内容の説明はしないことにする。

数式の変数としてレルフ列を使う:

11.1)    li .abu du li by. su'i cy.
    a = b + c

関数名としてレルフ列を使う(セルマホMAhOの「ma’o」を前につける):

11.2)    li .y.bu du li ma'o fy. boi xy.
    y = f(x)

レルフ列「fy」と「xy」を分離するのに「boi」が使われていることに注目。

セルブリとしてレルフ列を使う(セルマホMOIのシマヴォを後に付ける):

11.3)    le vi ratcu ny.moi le'i mi ratcu
    このラットは私のN番目のラットだ。

発話順序としてレルフ列を使う(セルマホMAIのシマヴォを後に付ける):

11.4)    ny.mai
    N番目に

添字としてレルフ列を使う(セルマホXIの「xi」を前に付ける):

11.5)    xy. xi ky.
    xk

数量詞としてレルフ列を使う(数学の括弧「vei … ve’o」で囲う):

11.6)    vei ny. [ve'o] lo prenu
    ( "n" ) 人

ここの括弧は省略不可である。「ny. lo prenu」のように省略すると、2つの別のスムティ、「ny.」と「lo prenu」に分離してしまう。単純な数字以上に複雑な数学的表現は、数量詞として使う時はほとんどの場合括弧が必要である。右括弧(シマヴォ「ve’o」)は大抵省略可能だ。

数学の一般的慣例に合わせて、以上の例ではすべて単一のレルフ詞だったが、レルフ列を使っても差し支えない。その場合も全体で1つの変数や関数の名前として解釈される。つまり、ロジバンでは「.abu by. cy.」といっても「a x b x c」のような掛け算の意味にはならず、「abc」という変数になる。(もちろん、場合によっては、複数のレルフ詞でできた名前を持つ変数(例えば「abc」)の値は、それぞれのレルフ詞(「a」と「b」と「c」)を掛け合わせたものになる、というような規則が設定されていることも考えられるが。)

数学的表現に関連して、変意詞についての例外的規則がある: 数学的表現内での変意は、周辺の文章内に出てくるレルフ詞に影響を及ぼさない。逆も同様である。

12. 頭字語

頭字語は、レルフでできた固有名である。例えば「DNA」「NATO」「CIA」など。「DNA」や「CIA」のように1文字ずつ発音するものもあれば、「NATO」のように普通につづられた普通の単語のように発音するものもある。また、どちらの読み方もされる場合もある。「SQL」は「エスキューエル」という人もいれば「シークェル」という人もいる。

ロジバンの固有名を作るには、好きな音の並びに子音をつけ、休止を最後に置けばよい。頭字語をロジバン化するには、レルフ詞をくっつけて並べ、母音が連続する箇所には「’」を挟む(休止は固有名には使えない)。そして最後に子音を付ける:

12.1)    la dyny'abub. .i la ny'abuty'obub.
    .i la cy'ibu'abub. .i la sykybulyl.
    .i la .ibubymym. .i la ny'ybucyc.
    DNA。 NATO。
    CIA。SQL。
    IBM。NYC。

最後の子音を何にするかについては、特に決まったルールはない。例12.1では、レルフ列のうち最後に出てくる子音をまた繰り返している。

母音のレルフ詞の「bu」を省略すれば、単語の長さを縮めることができる。(「.y.bu」の場合は、省略してしまうと意味が曖昧になるので、残しておく必要がある。)長い固有名を発音する時にはつい(文法に反して)休止を入れてしまいがちなので、短縮化はなかなか重要である。

12.2)    la dyny'am. .i la ny'aty'om.
    .i la cy'i'am. .i la sykybulym.
    .i la .ibymym. .i la ny'ybucym.
    DNA。NATO。
    CIA。SQL。
    IBM.。NYC。

例12.2で各語の終端の子音「m」は「merko」の「m」で、これらの頭字語が発祥した文化圏の印として使っている。

別の方法として、「’」のかわりに子音「z」を使うというものがある。こちらは「’」が無い仕様の時の言語を知っている読者にはより易しいかもしれない。

12.3)    la dynyzaz. .i la nyzatyzoz.
    .i la cyzizaz. .i la sykybulyz.
    .i la .ibymyz. .i la nyzybucyz.
    DNA。NATO。
    CIA。SQL。
    IBM。NYC。

レルフ列の前に「me」付けるという方法もある。こちらは今までの方法より短い語になる。「me」はスムティをセルブリに変換するシマヴォである:

12.4)    la me dy ny. .abu
    「d」「n」「a」 -に関するもの -と呼称される

「la」は通常は固有名をスムティとして使う時に前置するものだが、ここでは述語に付けて、その意味内容を示す固有名とする機能をうまく使っている。

12.5)    la cribe cu ciska
    「熊」と呼称されるものが書く
    熊は物書きである

例12.5はもちろん実物のクマのことを言っているのではなく、おそらく熊という名前の人のことを話題している。同様に、「me dy ny. .abu」は全体で1つの述語として働き、固有名の意味内容を示している。各文字の間に休止を挟むことのできる、一種の頭字語である。

13. コンピュータ処理で使われる文字コード

数値計算以外のことにコンピュータが利用され始めた当初から、レルフ・数字・句読点記号(これらを総称してキャラクタあるいは文字と言う)のうち必要なものと、数値(「キャラクタコード」あるいは「文字コード」)との対応表が作られ、使われてきた。これをキャラクタセットと称し、近年まで英語のアルファベットと幾つかの句読点記号のみが対象だった。(訳注: 日本語やその他の文字体系を扱うキャラクタセットもそれぞれ作られていた。) 現在、国際的な取り組みとして、世界中のあらゆる文字体系のあらゆる文字を1つの統一的キャラクタセットで扱えるようにしようという動きも広まっている。ロジバンではシマヴォ「se’e」(セルマホBY)を通してこれらの符号化方式を利用することができる。「se’e」の後には慣例として文字コードを示す数字シマヴォ(セルマホPA)が続き、全体として特定のキャラクタセットに属する1つの文字を表す。

    13.1)    me'o se'ecixa cu lerfu
            la .asycy'i'is. loi merko rupnu
        ASCIIキャラクタセットに属するキャラクタコード36は字詞であり、米ドルを表す。
        "$"は米ドルを表す。

例13.1を理解するためには、前提知識として”$“という文字がASCIIキャラクタセット(シンプルで古くからあるキャラクタセットの1つ)でどういう値に対応付けられているかを知っている必要がある。つまり、「se’e」方式が通じるのは符号化に用いるキャラクタセットを知っている相手だけということになる。それでも、意図した文字を正確に示したい場合においては、曖昧さのないことと(比較的)文化的に中立であるというメリットがあるため、ロジバンではキャラクタセットを利用することができ、そして利用したいという人にはそのための手段を提供しているである。

もう1つ例を挙げよう。Unicodeキャラクタセット(ISO 10646と同等)では、ピースマーク(逆さの三叉を丸で囲ったもの)は16進数を用いて262Eに符号化される。文脈上許されれば、ロジバン話者なら以下のように言える:

13.2)    me'o se'erexarerei sinxa le ka panpi
    [文字コード] 262E という表現は平和であることの象徴である。

会話の中に「se’e」から始まる語が出てきた時には、後に続く数値が上のように10進数なのか、それとも他の基数なのか、そしてどのキャラクタセットを使うのか、会話の流れなどから自明であるはずである。

14. レルフ詞の補助として使われるシマヴォの一覧

   シマヴォ   セルマホ     意味

    bu  BU      直前の語をレルフ詞に変換する
    ga'e    BY      大文字への変意詞
    to'a    BY      小文字への変意詞
    tau LAU     次のレルフ詞の大文字小文字を変意
    lo'a    BY      ラテン/ロジバン文字へ変意
    ge'o    BY      ギリシア文字へ変意
    je'o    BY      ヘブライ文字へ変意
    jo'o    BY      アラビア文字へ変意
    ru'o    BY      キリル文字へ変意
    se'e    BY      続く数字はキャラクタコードである
    na'a    BY      すべての変意を取り消す
    zai LAU     続くレルフ詞で文字体系を指定する
    ce'a    LAU     続くレルフ詞で書体を指定する
    lau LAU     続くレルフ詞は句読点記号である
    tei TEI     複合レルフ詞の始まり
    foi FOI     複合レルフ詞の終わり

LAUシマヴォの後にはBYシマヴォもしくはそれと同等の語を置かなければいけないことに注意。「同等」というのは、「bu」を後に付けたロジバンの単語(何でもよい)か、別のLAUシマヴォ(これも後続の語には同じ制限が付く)、もしくは「tei … foi」で囲まれた複合シマヴォのいずれかである。

15. 提案されているレルフ詞: はじめに

以降の各節では、ロジバンのレルフの仕組みで取り扱うことのできる文字体系について、提案されているレルフ詞が表にまとめられている。最初の列はレルフ(その文字体系上の文字ではなく、ラテン文字や日本語でなるべく短く書き表したもの)、2番目の列は固有名に基づいたレルフ詞である。3番目は、変意詞を利用してセルマホBYのシマヴォをそのまま記述する方式でのレルフ詞である。

これらの表はとくに公式の効力を持つものではない(ロジバンコミュニティ内で過去にいくつかの筋からの提案があり、お互いにあら探しをしたあげく、不和に終わり、さらには自分の提案をくつ返したりといった経緯がある)。レルフ詞についての最終決定というよりは、実用上の不具合を克服した版ができるまでのたたき台と思ってもらいたい。慣例に沿った最終的なかたちに収まるまでには、ここで紹介した仕組みも多少なりとも姿を変えていくだろうと予想される。

ラテン文字のレルフ詞については第2節(ロジバンで使われるもの)と、第5節 (ロジバンでは使われないラテン文字のレルフ)を参照してほしい。

16. ギリシア文字のレルフ詞の案

    アルファ       .alfas. bu      .abu
    ベータ        .betas. bu      by
    ガンマ       .gamas. bu      gy
    デルタ       .deltas. bu     dy
    エプシロン     .Epsilon. bu        .ebu
    ゼータ        .zetas. bu      zy
    エータ     .etas. bu       .e'ebu
    セータ       .tetas. bu      ty. bu
    イオタ        .iotas. bu      .ibu
    カッパ       .kapas. bu      ky
    ラムダ      .lymdas. bu     ly
    ミュー      .mus. bu        my
    ニュー      .nus. bu        ny
    クシー      .ksis. bu       ksis. bu
    オミクロン     .Omikron. bu        .obu
    パイ      .pis. bu        py
    ロー     .ros. bu        ry
    シグマ       .sigmas. bu     sy
    タウ     .taus. bu       ty
    ユプシロン     .Upsilon. bu        .ubu
    ファイ     .fis. bu        py. bu
    カイ     .xis. bu        ky. bu
    プサイ     .psis. bu       psis. bu
    オメガ       .omegas. bu     .o'obu
    有気記号       .dasei,as. bu       .y'y
    無気記号      .psiles. bu     xutla bu

17. キリル文字のレルフ詞の案

2番目の列は、古代教会スラヴ語における古い名前をもとにしている。ここではロシア語で使われる文字のみを示している。他の言語でもっと文字が必要になる場合は、必要に応じて作ることができる。

    a       .azys. bu       .abu
    b       .bukys. bu      by
    v       .vedis. bu      vy
    g       .glagolis. bu       gy
    d       .dobros. bu     dy
    e       .iestys. bu     .ebu
    zh      .jivet. bu      jy
    z       .zemlias. bu        zy
    i       .ije,is. bu     .ibu
    短い「イ」                 .itord. bu
    k       .kakos. bu      ky
    l       .liudi,ies. bu      ly
    m       .myslites. bu       my
    n       .naciys. bu     ny
    o       .onys. bu       .obu
    p       .pokois. bu     py
    r       .riytsis. bu        ry
    s       .slovos. bu     sy
    t       .tvriydos. bu       ty
    u       .ukys. bu       .ubu
    f       .friytys. bu        fy
    kh      .xerys. bu      xy
    ts      .tsis. bu       tsys. bu
    ch      .tcriyviys. bu      tcys. bu
    sh      .cas. bu        cy
    shch        .ctas. bu       ctcys. bu
    硬音符   .ier. bu        jdari bu
    yeri        .ierys. bu      .y.bu
    軟音符   .ieriys. bu     ranti bu
    裏返したイェー              .ecarn. bu
    yu      .ius. bu        .iubu
    ya      .ias. bu        .iabu

18. ヘブライ文字のレルフ詞の案

    アレフ       .alef. bu       .alef. bu
    ベート     .bet. bu        by
    ギーメル       .gimel. bu      gy
    ダレット       .daled. bu      dy
    ヘー      .xex. bu        .y'y
    ヴァヴ     .vav. bu        vy
    ザイン       .zai,in. bu     zy
    ヘット        .xet. bu        xy. bu
    テット     .tet. bu        ty. bu
    ヨッド     .iud. bu        .iud. bu
    カフ     .kaf. bu        ky
    ラメド       .LYmed. bu      ly
    メム     .mem. bu        my
    ヌン     .nun. bu        ny
    サメフ      .samex. bu      samex. bu
    アイン        .ai,in. bu      .ai,in bu
    ペー      .pex. bu        py
    ツァディー       .tsadik. bu     tsadik. bu
    コフ     .kuf. bu        ky. bu
    レーシュ        .rec. bu        ry
    シン        .cin. bu        cy
    スィン     .sin. bu        sy
    タヴ     .taf. bu        ty.
    ダゲッシュ      .daGEC. bu      daGEC. bu
    ヒリック       .xirik. bu      .ibu
    ツェーレー    .tseirex. bu        .eibu
    セゴール       .seGOL. bu      .ebu
    クブツ     .kubuts. bu     .ubu
    カマツ      .kamats. bu     .abu
    パタフ      .patax. bu      .a'abu
    シュヴァー       .cyVAS. bu      .y.bu
    ホラム      .xolem. bu      .obu
    シュルク      .curuk. bu      .u'ubu

19. アクセント記号と連続文字のレルフ詞の案

この一覧は完全なものではなく、ヒントにでもなればよいほどのものである。ポーランド語の「暗い」Lやマルタ語の「バー付き」Hなど、まだ正式な文字がないレルフもある。

    鋭アクセント       .akut. bu
                もしくは .pritygal. bu   [pritu galtu]
    低アクセント       .grav. bu
                もしくは .zulgal. bu  [zunle galtu]
    曲折アクセント  .cirkumfleks. bu
                もしくは .midgal. bu  [midju galtu]
    チルダ       .tildes. bu
    マクロン、長音記号      .makron. bu
    ブレーヴェ、短音記号       .brevis. bu
    上付きドット    .garmoc. bu     [gapru mokca]
    ウムラウト、トレマ    relmoc. bu      [re mokca]
    上付きリング   .garjin. bu     [gapru djine]
    セディーユ     .seDIlys. bu
    二重鋭アクセント    .re'akut. bu        [re akut.]
    オゴネク      .ogoniek. bu
    ハーチェク       .xatcek. bu
    合字のfi    tei fy. ibu foi
    デンマーク語、ラテン語の合字ae tei .abu .ebu foi
    オランダ語の合字ij    tei .ibu jy. foi
    ドイツ語の合字sz   tei sy. zy. foi

20. 無線通信のためのレルフ詞の案

無線を介した通信や、騒音の激しい環境下で完璧に間違いなくメッセージを伝える必要がある場合に使う一群のレルフ詞がある。国際的合意によって決められたもので、英語のアルファベットに対してそれぞれ英語の単語が対応付けられたものである。正式には「ICAOフォネティックコード」と呼ばれ、非英語圏の国でも使われている。

以下に、英語の単語を標準的なつづり方でつづったものと、ロジバン版の案を表にした。ロジバン版の語は英語の音そのままにはなっておらず、英語のつづりとロジバンの発音の両方において譲歩している箇所がある(「tcarlis. bu」ではなく「carlis. bu」としているなど)。

    Alfa        .alfas. bu
    Bravo       .bravos. bu
    Charlie     .carlis. bu
    Delta       .deltas. bu
    Echo        .ekos. bu
    Foxtrot     .fokstrot. bu
    Golf        .golf. bu
    Hotel       .xoTEL. bu
    India       .indias. bu
    Juliet      .juliet. bu
    Kilo        .kilos. bu
    Lima        .limas. bu
    Mike        .maik. bu
    November    .novembr. bu
    Oscar       .oskar. bu
    Papa        .paPAS. bu
    Quebec      .keBEK. bu
    Romeo       .romios. bu
    Sierra      .sieras. bu
    Tango       .tangos. bu
    Uniform     .Uniform. bu
    Victor      .viktas. bu
    Whiskey     .uiskis. bu
    X-ray       .eksreis. bu
    Yankee      .iankis. bu
    Zulu        .zulus. bu